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トットちゃん達、一年生は、まだ自習をするほどの勉強を始めていなかったけど、それでも、自分の好きな科目から勉強する、ということには、かわりなかった。カタカナを書く子、絵を描く子。本を読んでる子。中には、体操をしている子もいた。トットちゃんの隣の女の子は、もう、ひらがなが書けるらしく、ノートに写していた。トットちゃんは、何もかもが珍しくて、ワクワクしちゃって、みんなみたいに、すぐ勉強、というわけにはいかなかった。そんな時、トットちゃんの後ろの机の男の子が立ち上がって、黒板のほうに歩き出した。ノートを持って。黒板の横の机で、他の子に何かを教えている先生のところに行くらしかった。その子の歩くのを、後ろから見たトットちゃんは、それまでキョロキョロしてた動作をピタリと止めて、頬杖をつき、ジーっと、その子を見つめた。その子は、歩くとき、足を引きずっていた。とっても、歩くとき、体が揺れた。始めは、わざとしているのか、と思ったくらいだった。でも、やっぱり、わざとじゃなくて、そういう風になっちゃうんだ、と、しばらく見ていたトットちゃんに分かった。その子が、自分の机に戻ってくるのを、トットちゃんは、さっきの、頬杖のまま、見た。目と目が合った。その男の子は、トットちゃんを見ると、ニコリと笑った。トットちゃんも、あわてて、ニコリとした。その子が、後ろの席に座ると、――座るのも、他の子より、時間がかかったんだけど――トットちゃんは、クルリと振り向いて、その子に聞いた。「どうして、そんな風に歩くの?」その子は、優しい声で静かに答えた。とても利口そうな声だった。「僕、小児麻痺なんだ」「しょうにまひ?」トットちゃんは、それまで、そういう言葉を聴いたことが無かったから、聞き返した。その子は、少し小さい声でいった。「そう、小児麻痺.足だけじゃないよ。手だって……」そういうと、その子は、長い指と指が、くっついて、曲がったみたいになった手を出した。トットちゃんは、その左手を見ながら、「直らないの?」と心配になって聞いた。その子は、黙っていた。トットちゃんは、悪いことを聞いたのかと悲しくなった。すると、その子は、明るい声で言った。「僕の名前は、やまもとやすあき。君は?」トットちゃんは、その子が元気な声を出したので、嬉しくなって、大きな声で言った。「トットちゃんよ」こうして、山本泰明ちゃんと、トットちゃんのお友達づきあいが始まった。電車の中は、暖かい日差しで、暑いくらいだった。誰かが、窓を開けた。新しい春の風が、電車の中を通り抜け、子供たちの髪の毛が歌っているように、とびはねた。トットちゃんの、トモエでの第一目は、こんな風に始まったのだった。
海のものと山のもの さて、トットちゃんが待ちに待った「海のものと山のもの」のお弁当の時間が来た。この「海のものと山のもの」って、何か、といえば、それは、校長先生が考えた、お弁当のおかずのことだった。普通なら、お弁当のおかずについて、「子供が好き嫌いをしないように、工夫してください」とか、「栄養が、片寄らないようにお願いします」とか、言うところだけど、校長先生はひとこと、 「海のものと山のものを持たせてください」と、子供たちの家の人に、頼んだ、というわけだった。 山は……例えば、お野菜とか、お肉とか(お肉は山で取れるってわけじゃないけど、大きく分けると、牛とか豚とかニワトリとかは、陸に住んでいるのだから、山のほうに入るって考え)、海は、お魚とか、佃煮とか。この二種類を、必ずお弁当のおかずに入れてほしい、というのだった。(こんなに簡単に、必要なことを表現できる大人は、校長先生のほかには、そういない)とトットちゃんのママは、ひどく感心していた。しかも、ママにとっても、海と山とに、分けてもらっただけで、おかずを考えるのが、とても面倒なことじゃなく思えてきたから、不思議だった。それに校長先生は、海と山といっても、“無理しないこと”“贅沢しないこと”といってくださったから、山は“キンピラゴボウと玉子焼”で海は“おかか”という風でよかったし、もっと簡単な海と山を例にすれば、“お海苔と梅干”でよかったのだ。 そして子供たちは、トットちゃんが始めてみたときに、とっても、うらやましく思ったように、お弁当の時間に、校長先生が、自分たちのお弁当箱の中をのぞいて、「海のものと、山のものは、あるかい?」と、ひとりずつ確かめてくださるのが、嬉しかったし、それから、自分たちも、どれが海で、どれが山かを発見するのも、ものすごいスリルだった。でも、たまには、母親が忙しかったり、あれこれ手が回らなくて、山だけだったり、海だけという子もいた。そういう時は、どうなるのか、といえば、その子は心配しないでいいのだった。なぜなら、お弁当の中をのぞいて歩く校長先生の後ろから、白い、割烹前掛けをかけた、校長先生の奥さんが、両手に、おなべをひとつずつ持って、ついて歩いていた。そして先生がどっちか足りないこの前で、「海!」というと、奥さんは、海のおなべから、ちくわの煮たのを、二個くらい、お弁当箱のふたに、乗せてくださったし、先生が、\ 「山!」といえば、もう片方の、山のおなべから、おいもの煮ころがしが、飛び出す、という風だったから。こんなわけだったので、どの子供たちも「ちくわが嫌い」なんて、そんなことは、言わなかったし、(誰のおかずが上等で、誰のおかずが、いつも、みっともない)なんて思わなくて、海と山とが揃った、ということが、嬉しくて、お互いに笑いあったり、叫んだりするのだった。トットちゃんにも、やっと「海のものと山のもの」が、なんだか分かった。阻止寺、(ママが、今朝、大急行で作ってくれたお弁当は、大丈夫かな?)と少し心配になった。でも、ふたを取ったとき、トットちゃんが、「わあーい」といいそうになって、口お押さえたくらい、それは、それは、ステキなお弁当だった。黄色のいり卵、グリンピース、茶色のデンブ、ピンク色の、タラコをパラパラに炒ったの、そんな、いろんな色が、お花畑みたいな模様になっていたのだもの。校長先生は、トットちゃんのを、のぞきこむと、「きれいだね」といった。トットちゃんは、嬉しくなって、「ママは、とっても、おかず上手なの」といった。校長先生は、「そうかい」といってから、茶色のデンブをさして、トットちゃんに、「これは、海かい?山かい?」と聞いた、トットちゃんは、デンブを、ジーっと見て、「これは、どっちだろう」と考えた。(色からすると、山みたいだけど、だって、土みたいな色だからさ。でも……わかんない)そう思ったので、「わかりません」と答えた。すると、校長先生は、大きな声で、「デンブは、海と山と、どっちだい?」と、みんなに聞いた。ちょっと考える間があって、みんな一斉に、「山!」とか、「海!」とか叫んで、どっちとも決まらなかった。みんなが叫び終わると、校長先生は、いった。「いいかい、デンブは、海だよ」「なんで」と、肥った男の子が聞いた。校長先生は、机の輪の真ん中に立つと、「デンブは、魚の身をほぐして、細かくして、炒って作ったものだからさ」と説明した。「ふーん」と、みんなは、感心した声を出した。そのとき誰かが、「先生、トットちゃんのデンブ、見てもいい?」と聞いた。校長先生が、「いいよ」というと、学校中の子が、ゾロゾロ立ってきて、トットちゃんのデンブを見た。デンブは知ってて、食べたことはあっても、今の話で、急に興味が出てきた子も、また、自分の家のデンブと、トットちゃんのと、少し、かわっているのかな?と思って、見たい子もいるに違いなかった。デンブを見にきた子の中には、においをかぐ子もいたので、トットちゃんは、鼻息で、デンブが飛ばないか、と心配になったくらいだった。でも、初めてのお弁当の時間は、少しドキドキはしたけど、楽しくて、「海のものと山のもの」を考えるのも面白いし、デンブがお魚って分かったし、ママは、「海のものと山のもの」を、ちゃんと入れてくれたし、トットちゃんは、(ぜんぶ、よかったな)と、嬉しくなった。そして、次に、嬉しいのは、ママの弁当は、食べると、おいしいことだった。
よく噛めよ で、普通なら、これで、「いただきまーす」になるんだけど、このトモエ学園は、ここで、合唱が入るのが、また、変わっていた。校長先生は、音楽家でもあったから、「お弁当を食べる前に歌う歌」というのを作った。ただし、これは、作曲が、イギリス人で、歌詞だけが、校長先生だった。
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