第9章

小说:窗边的小豆豆(中文版+日文版)作者:[日]黑柳彻子字数:3506更新时间 : 2017-07-30 10:15:55

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この事件以来、トットちゃんは“トイレに入ったとき、絶対に下を見なくなった”。それから校長先生を、“心から信頼できる人”と思ったし、“前よりももっと先生を好き”になったのだった。トットちゃんは、校長先生との約束どおり、山を崩して、完全に、元のトイレの池に、もどした。汲むときは、あんなに大変だったのに、戻すときは早かった。それから、水分のしみこんだ土も、ひしゃくで削って、少し、もどした。地面を平らにして、コンクリートの蓋を、キチンと、元の通りにして、ひしゃくも、物置に返した。その晩、眠る前に、トットちゃんは、暗やみに落ちていく、きれいなお財布の姿を思い出して、やっぱり(なつかしい)と考えながら、昼間の疲れで、早く、眠くなった。その頃、トットちゃんが奮闘したあたりに地面は、まだ濡れていて、月の光の下で、美しいもののように、キラキラ光っていた。お財布も、どこかで、静かにしているに違いなかった。

    トットちゃんの本当の名前は「徹子」という。どして、こういう名前になったのかというと、生まれて来るとき、親戚の人や、ママやパパの友達たち、みんなが、「男の子に違いない!」とか、いたものだから、初めて子供を持つパパとママが、それを信用して、「徹」と決めた。そしたら、女の子だったので、少しは困ったけど、「徹」の字が、二人も気に入っていたから、くじけずに、それに早速、「子」をつけて、「徹子」としたのだった。 そんな具合で、小さいときから、周りの人は、「テツコちゃん」と呼んだ。ところが、本人は、そう思っていなくて、誰かが、「お名前は?」と聞くと、必ず、「トットちゃん!」と答えた。小さいときって、口が回らない、ってことだけじゃなくて、言葉をたくさん、知らないから、人のしゃべってる音が、自分流に聞こえちゃう、ってことがある。トットちゃんの幼馴染みの男の子で、どうしても、「石鹸のあぶく」が、「ちぇんけんのあぶけ」になっちゃう子や、「看護婦さん」のことを、「かんごくさん」といっていた女の子がいた。そんなわけで、トットちゃんは、 「テツコちゃん、テツコちゃん」と呼ばれるのを、「トットちゃん、トットちゃん」と思い込んでいたのだった。おまけに、「ちゃん」までが、自分の名前だと信じていたのだった。そのうち、パパだけは、いつ頃からか、「トット助」と呼ぶようになった。どうしてだかは、分からないけど、パパだけは、こう呼んだ。「トット助!バラの花についてるそう鼻虫を取るの、手伝ってくれない?」というふうに。結局、小学生になっても、パパと、犬のロッキー以外の人は、「トットちゃん」と呼んでくれたし、トットちゃんも、ノートには、「テツコ」と書いたけど、本当は、「トットちゃん」だと、思っていた。

    トットちゃんは、昨日、とても、がっかりしてしまった。それは、ママ「もう、ラジオで落語を聞いちゃダメよ」と、いったからだった。トットちゃんの頃のラジオは、大きくて、木で出来ていた。だいたいが、縦長の四角で、てっぺんが、丸くなっていて、正面はスピーカーになってるから、ピンクの絹の布などが張ってあり、真ん中に、からくさの彫刻があって、スイッチが二つだけ、ついている、とても優雅な形のものだった。学校に入る前から、そのラジオのピンクの部分に、耳を突っ込むようにして、トットちゃんは、落語を聞くのが好きだった。落語は、とても面白いと思ったからだった。そして昨日までは、ママも、トットちゃんが落語を聞くことについて、何も言わなかった。ところが、昨日の夕方、弦楽四重奏の練習のために、パパのオーケストラの仲間が、トットちゃんの家の応接間に集まったときだった。チェロの橘常定さんが、トットちゃんに、「バナナを、おみやげに持ってきてくださった」とママが入ったので、トットちゃんは、大喜びのあまり、こんな風に言ってしまったのだ。つまり、トットちゃんは、バナナをいただくと、丁寧に、お辞儀をしてから、橘さんに、こういった。「おっ母あ、こいつは、おんのじだぜ」 それ以来、落語を聞くのは、パパとママが留守のとき、秘密に、ということになった。噺家が上手だと、トットちゃんは、大声で笑ってしまう。もし、誰か大人が、この様子を見ていたら、「よく、こんな小さい子が、この難しい話で笑うな」と思ったかも知れないけど、実際の話、子供は、どんなに幼く見えても、本当に面白いものは、絶対に、わかるのだった。

    今日、学校の昼休みに、「今晩、新しい電車、来るわよ」と、ミヨちゃんが、いった。ミヨちゃんは、校長先生の三番目の娘で、トットちゃんと同級だった。教室用の電車は、すでに、校庭に六台、並んでいたけれど、もう一台、来るという。しかも、それは、「図書室用の電車」ミヨちゃんは、教えてくれた。みんな、すっかり興奮してしまった。そのとき、誰かが、いった。「どこを走って学校に来るのかなあ……」これは、すごい疑問だった。ちょっと、シーン、としてから誰かがいった。「途中まで、大井町線の線路を走って来て、あそこの踏切から、外れて、ここに来るんじゃないの?」すると、誰かが言った。「そいじゃ、脱線みたいじゃないか」もうひとりの誰かが言った。「じゃ、リヤカーで運ぶんじゃないかな?」すると、すぐ誰かが言った。「あんなに大きな電車が、乗っかるリヤカーって、ある?」「そうか……」と、みんなの考えが止まってしまった。確かに、今の国電の車輌一台分が乗るヤリカーもトラックだって、ないように思えた。「あのさ……」と、トットちゃんは、考えたあげくに、いった。「路線をさ、ずーっと、学校まで敷くんじゃないの?」誰かが聞いた。「どこから?」「どこからって、あのさ、今、電車が、いるところから……」トットちゃんは、いいながら、(やっぱり、いい考えじゃなかった)と思った。だって、どこに電車があるのか、分からないし、家やなんかを、ぶっこわして、まっすぐの線路を、学校まで敷くはず、ないもの、と思ったからだった。それから、しばらくの間、みんなで、「ああでもない」「こうでもない」と、いいあった結果、とうとう、「今晩、家に帰らないで、電車が来るところを、見てみよう」ということになった。代表として,ミヨちゃんが,お父さんである校長先生に、夜まで、みんなが学校にいてもいいか、聞きに行った。しばらくして、ミヨちゃんは、帰って来ると、こういった。「電車が来るの、夜、うんと遅くだって。走ってる電車が終わってから。でも、どうしても見たい人は、一回、家に帰って、家の人に聞いて、“いい”といわれたら、パジャマと、毛布を持って晩御飯食べてから、学校にいらっしゃいって!」「わーい!!」みんなは、さらに興奮した。「パジャマだって?」「毛布だって?」その日の午後は、もう、みんな、勉強してても、気が気じゃなかった。放課後、トットちゃんのクラスの子は、みんな、弾丸のように、家に帰ってしまった。お互いに、パジャマと毛布を持って集まれる幸運を祈りながら……。\ 家に着くなり、トットちゃんは、ママに言った。「電車が来るの、どうやって来るか、まだ、わかんないけど。パジャマと、毛布。ねえ、行っても、いいでしょう?」この説明で、事情のわかる母親は、まず、いないと思うけど、トットちゃんのママも、意味は、わからなかった。でも、トットちゃんの真剣な顔で、(何か、かなり変わったことが起きるらしい)と察した。ママは、いろいろと、トットちゃんに質問した。そして、とうとう、どういう話なのか、これから、何が起きようとしているのか、よく、わかった。そして、ママは、そういうのを、トットちゃんが見ておく機会は、そうないのだかたら、見ておくほうがいいし、(私も見たいわ)と思ったくらいだった。ママは、トットちゃんのパジャマと毛布を用意すると、晩御飯を食べてから、学校まで、送っていった。学校に、集まったのは、噂を聞きつけた上級生も少しいて、全部で、十人くらいだった。トットちゃんのままの他にも、二人くらい、送ってきたお母さんがいて、“見たそう”にしてたけど校長先生に、子供たちをお願いして、帰っていった。「来たら、起こしてあげるよ」と、校長先生に言われて、みんな講堂に、毛布に包まって、寝ることになった。(電車が、どうやって運ばれるのか、それを考えると、夜も寝られない)とも思ったけど、それまでの興奮で、疲れてきて、「絶対に起こしてよ」といいながら、だんだん、みんな、眠くなって、とうとう、寝てしまった。

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