第8章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3504更新时间 : 2017-07-31 14:04:03

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それでも我々はすぐに気があって仲良くなった。彼の父親は歯科医で、腕の良さと料金の高さで知られていた。



     「今度の日曜日、ダブルデートしないか?俺の彼女が女子校なんだけど、可愛い女の子つれてくるからさ」と知りあってすぐにキズキが言った。いいよ、と僕は言った。そのようにして僕と直子は出会ったのだ。



     僕とキズキと直子はそんな風に何度も一緒に時を過したものだが、それでもキズキが一度席を外して二人きりになってしまうと、僕と直子はうまく話をすることができなかった。二人ともいったい何について話せばいいのかわからなかったのだ。実際、僕と直子のあいだには共通する話題なんて何ひとつとしてなかった。だから仕方なく我々は殆んど何もしゃべらずに水を飲んだりテーブルの上のものをいじりまわしたりしていた。そしてキズキが戻ってくるのを待った。キズキが戻ってくると、また話が始まった。直子もあまりしゃべる方ではなかったし、僕もどちらかといえば自分が話すよりは相手の話を聞くのが好きというタイプだったから、彼女と二人きりになると僕としてはいささか居心地が悪かった。相性がわるいとかそういうのではなく、ただ単に話すことがないのだ。



     キズキの葬式の二週間ばかりあとで、僕と直子は一度だけ顔をあわせた。ちょっとした用事があって喫茶店で待ちあわせたのだが、用件が済んでしまうとあとはもう何も話すことはなかった。僕はいくつか話題をみつけて彼女に話しかけてみたが、話はいつも途中で途切れてしまった。それに加えて彼女のしゃべり方にはどことなく角があった。直子は僕に対してなんとなく腹を立てているように見えたが、その理由は僕にはよくわからなかった。そして僕と直子は別れ、一年後に中央線の電車でばったりと出会うまで一度も顔を合わせなかった。



    



     あるいは直子が僕に対して腹を立てていたのは、キズキと最後に会って話をしたのが彼女ではなく僕だったからかもしれない。こういう言い方は良くないとは思うけれど、彼女の気持はわかるような気がする。僕としてもできることならかわってあげたかったと思う。しかし結局のところそれはもう起ってしまったことなのだし、どう思ったところで仕方ない種類のことなのだ。



     その五月の気持の良い昼下がりに、昼食が済むとキズキは僕に午後の授業はすっぽかして玉でも撞きにいかないかと言った。僕もとくに午後の授業に興味があるわけではなかったので学校を出てぶらぶらと坂を下って港の方まで行き、ビリヤード屋に入って四ゲームほど玉を撞いた。最初のゲームを軽く僕がとると彼は急に真剣になって残りの三ゲームを全部勝ってしまった。約束どおり僕がゲーム代を払った。ゲームのあいだ彼は冗談ひとつ言わなかった。これはとても珍しいことだった。ゲームが終ると我々は一服して煙草を吸った。



     「今日は珍しく真剣だったじゃないか」と僕は訊いてみた。



     「今日は負けたくなかったんだよ」とキズキは満足そうに笑いながら言つた。



     彼はその夜、自宅のガレージの中で死んだ。N360の排気パイプにゴムホースをつないで、窓のすきまをガムテープで目ばりしてからエンジンをふかせたのだ。死ぬまでにどれくらいの時間がかかったのか、僕にはわからない。親戚の病気見舞にでかけていた両親が帰宅してガレージに車を入れようとして扉を開けたとき、彼はもう死んでいた。カー?ラジオがつけっぱなしになって、ワイパーにはガソリン?スタンドの領収書がはさんであった。



     遺書もなければ思いあたる動機もなかった。彼に最後に会って話をしたという理由で僕は警察に呼ばれて事情聴取された。そんなそぶりはまったくありませんでした、いつもとまったく同じでした、と僕は取調べの警官に言った。警官は僕に対してもキズキに対してもあまり良い印象は持たなかったようだった。高校の授業を抜けて玉撞きに行くような人間なら自殺したってそれほどの不思議はないと彼は思っているようだった。新聞に小さく記事が載って、それで事件は終った。赤いN360は処分された。教室の彼の机の上にはしばらくのあいだ白い花が飾られていた。



     キズキが死んでから高校を卒業するまでの十ヵ月ほどのあいだ、僕はまわりの世界の中に自分の位置をはっきりと定めることができなかった。僕はある女の子と仲良くなって彼女と寝たが、結局半年ももたなかった。彼女は僕に対して何ひとつとして訴えかけてこなかったのだ。僕はたいして勉強をしなくても入れそうな東京の私立大学を選んで受験し、とくに何の感興もなく入学した。その女の子は僕に東京に行かないでくれと言ったが、僕はどうしても神戸の街を離れたかった。そして誰も知っている人間がいないところで新しい生活を始めたかったのだ。



     「あなたは私ともう寝ちゃつたから、私のことなんかどうでもよくなっちゃったんでしょ?」と彼女は言って泣いた。



     「そうじゃないよ」と僕は言った。僕はただその町を離れたかっただけなのだ。でも彼女は理解しなかった。そして我々は別れた。東京に向う新幹線の中で僕は彼女の良い部分や優れた部分を思いだし、自分がとてもひどいことをしてしまったんだと思って後悔したが、とりかえしはつかなかった。そして僕は彼女のことを忘れることにした。



     東京について寮に入り新しい生活を始めたとき、僕のやるべきことはひとつしかなかった。あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分のあいだにしかるべき距離を置くこと――それだけだった。僕は緑のフェルトを貼ったビリヤード台や、赤いN360や机の上の白い花や、そんなものをみんなきれいさっぱり忘れてしまうことにした。火葬場の高い煙突から立ちのぼる煙や、警察の取調べ室に置いてあったずんぐりした形の文鎮や、そんな何もかもをだ。はじめのうちはそれでうまく行きそうに見えた。しかしどれだけ忘れてしまおうとしても、僕の中には何かぼんやりとした空気のかたまりのようなものが残った。そして時が経つにつれてそのかたまりははっきりとした単純なかたちをとりはじめた。僕はそのかたちを言葉に置きかえることができる。それはこういうことだった。



    



     死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。



    



     言葉にしてしまうと平凡だが、そのときの僕はそれを言葉としてではなく、ひとつの空気のかたまりとして身のうちに感じたのだ。文鎮の中にも、ビリヤード台の上に並んだ赤と白の四個のボールの中にも死は存在していた。そして我々はそれをまるで細かいちりみたいに肺の中に吸いこみながら生きているのだ。



     そのときまで僕は死というものを完全に生から分離した独立的な存在として捉えていた。つまりと。それは僕には至極まともで論理的な考え方であるように思えた。生はこちら側にあり、死は向う側にある。僕はこちら側にいて、向う側にはいない。



     しかしキズキの死んだ夜を境にして、僕にはもうそんな風に単純に死を(そして生を)捉えることはできなくなってしまった。死は生の対極存在なんかではない。死は僕という存在の中に本来的に既に含まれているのだし、その事実はどれだけ努力しても忘れ去ることのできるものではないのだ。あの十七歳の五月の夜にキズキを捉えた死は、そのとき同時に僕を捉えてもいたからだ。



     僕はそんな空気のかたまりを身のうちに感じながら十八歳の春を送っていた。でもそれと同時に深刻になるまいとも努力していた。深刻になることは必ずしも真実に近づくことと同義ではないと僕はうすうす感じとっていたからだ。しかしどう考えてみたところで死は深刻な事実だった。僕はそんな息苦しい背反性の中で、限りのない堂々めぐりをつづけていた。それは今にして思えばたしかに奇妙な日々だった。生のまっただ中で、何もかもが死を中心にして回転していたのだ。

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