第29章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3511更新时间 : 2017-07-31 14:04:03

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実は自分の方からあなたにそろそろ手紙を書かなくてはと思っていたところなのだ、とその手紙にはあった。



    そこまで読んでから僕は部屋の窓をあけ、上着を脱ぎ、ベッドに腰かけた。近所の鳩小屋からホオホオという鳩の声が聞こえてきた。風がカーテンを揺らせた。僕は直子の送ってきた七枚の便箋を手にしたまま、とりとめない想いに身を委ねていた。その最初の何行かを読んだだけで、僕のまわりの現実の世界がすうっとその色を失っていくように感じられた。僕は目を閉じ、長い時間をかけて気持ちをひとつにまとめた。そして深呼吸をしてからそのつづきを読んだ。



    



    「ここに来てもう四ヶ月近くになります」と直子はつづけていた。



    「私はその四ヶ月のあいだあなたのことをずいぶん考えていました。そして考えれば考えるほど、私は自分があなたに対して公正ではなかったのではないかと考えるようになってきました。私はあなたに対して、もっときちんとした人間として公正に振舞うべきではなかったのかと思うのです。



    でもこういう考え方ってあまりまともじゃないかもしれませんね。どうしてかというと私くらいの年の女の子は『公正』なんていう言葉はまず使わないからです。普通の若い女の子にとっては、物事が公正かどうかなんていうのは根本的にどうでもいいことだからです。ごく普通の女の子は何かが公正かどうかよりは何が美しいかとかどうすれば自分が幸せになれるかとか、そういうことを中心に物事を考えるものです。『公正』なんていうのはどう考えても男の人の使う言葉ですね。でも今の私にはこの『公正』という言葉はとてもぴったりしているように感じられるのです。たぶん何が美しいかとかどうすれば幸せになるかとかいうのは私にとってはとても面倒でいりくんだ命題なので、つい他の基準にすがりついてしまうわけです。たとえば公正であるかとか、正直であるかとか、普遍的であるかとかね。



    しかし何はともあれ、私は自分があなたに対して公正ではなかったと思います。そしてそれでずいぶんあなたを引きずりまわしたり、傷つけたりしたんだろうと思います。でもそのことで、私だって自分自身を引きずりまわして、自分自身を傷つけてきたのです。言いわけするわけでもないし、自己弁護するわけでもないけれど、本当にそうなのです。もし私があなたの中に何かの傷を残したとしたら、それはあなただけの傷ではなくて、私の傷でもあるのです。たからそのことで私を憎んだりしないで下さい。私は不完全な人間です。私はあなたが考えているよりずっと不完全な人間です。だからこと私はあなたに憎まれたくないのです。あなたに憎まれたりすると私は本当にバラバラになってしまします。私はなたのように自分の殻の中にすっと入って何かをやりすごすということができないのです。あなたは本当はどうなのか知らないけれど、私にはなんとなくそう見えちゃうことがあるのです。だから時々あなたのことがすごくうらやましくなるし、あなたを必要以上に引きずりまわることになったのもあるいはそのせいかもしれません。



    こういう物の見方ってあるいは分析的にすぎるのかもしれませんね。そう思いませんか?ここの治療は決して分析的にすぎるという物ではありません。でも私のような立場に置かれて何ヶ月も治療を受けていると、いやでも多かれ少なかれ分析的になってしまうものなのです。何かがこうなったのはこういうせいだ、そしてそれはこれを意味し、それ故にこうなのだ、とかね。こういう分析が世界を単純化しようとしているのか細分化しようとしているのか私にはよくわかりません。



    しかし何はともあれ、私は一時に比べるとずいぶん回復したように自分でも感じますし、まわりの人々もそれを認めてくれます。こんあ風に落ち着いて手紙を書けるのも久しぶりのことです。七月にあなたに出した手紙は身をしぼるような思いで書いたのですが(正直言って、何を書いたのか全然思い出せません。ひどい手紙じゃなかったかしら?)、今回はすごく落ち着いて書いています。きれいな空気、外界から遮断された静かな世界、規則正しい生活、毎日の運動、そういうものがやはり私には必要だったようでう。誰かに手紙を書けるというのがいいものですね。誰かに自分の思いを伝えたいと思い、机の前に座ってペンをとり、こうして文章が書けるということは本当に素敵です。もちろん文章にしてみると自分の言いたいことのほんの一部しか表現できないのだけれど、でもそれでもかまいません。誰かに何かを書いてみたいという気持ちになれるだけで今の私には幸せなのです。そんなわけで、私は今あなたに手紙を書いています。今は夜の七時半で、夕食を済ませ、お風呂にも入り終ったところです。あたりはしんとして、窓の外は真っ暗です。光ひとつ見えません。いつもは星がとてもきれいに見えるのですが今日は曇っていて駄目です。ここにいる人たちはみんなとても星にくわしくて、あれが乙女座だとか射手座だとか私に教えてくれます。たぶん日が暮れると何もすることがなくなるので嫌でもくわしくなっちゃうんでしょうね。そしてそれはと同じような理由で、ここの人々は鳥や花や虫のこともとてもよく知っています。そういう人たちと話していると、私は自分がいろんなことについていかに無知であったかということを思い知らされますし、そんな風に感じるのはなかなか気持ちの良いものです。



    ここには全部で七十人くらいの人が入って生活しています。その他にスタッフ(お医者、看護婦、事務、その他いろいろ)が二十人ちょっといます。とても広いところですから、これは決して多い数字ではありません。それどころか閑散としていると表現した方が近いかもしれませんね。広々として、自然に充ちていて、人々はみんな穏やかに暮らしています。あまりにも穏やかなのでときどきここが本当のまともな世界なんじゃないかという気がするくらいです。でも、もちろんそうではありません。私たちはある種の前提のもとにここで暮らしているから、こういう風にもなれるのです。



    私はテニスとバスケット?ボールをやっています。バスケット?ボールのチームは患者(というのは嫌な言葉ですが仕方ありませんね)とスタッフが入りまじって構成されています。でもゲームに熱中しているうちに私には誰が患者で誰がスタッフなのかだんだんわからなくなってきます。これはなんだか変なものです。変な話だけれど、ゲームをしながらまわりを見ていると誰も彼も同じくらい歪んでいるように見えちゃうのです。



    ある日私の担当医にそのことを言うと、君の感じていることはある意味で正しいのだと言われました。彼は私たちがここにいるのはその歪みを矯正するためではなく、その歪みに馴れるためなのだといいます。私たちの問題点のひとつはその歪みを認めて受けれることができないというところにあるのだ、と。人間一人ひとりが歩き方に癖があるように、感じ方や考え方や物の見方にも癖があるし、それはなおそうと思っても急になおるものではないし、無理になおそうとすると他のところがおかしくなってしまうことになるんだそうです。もちろんこれはすごく単純化した説明だし、そういうのは私たちの抱えている問題のあるひとつの部分にすぎないわけですが、それでも彼の言わんとすることは私にもなんとなくわかります。私たちはたしかに自分の歪みに上手く順応しきれないでいるのかもしれません。だからその歪みが引き起こす現実的な痛みや苦しみを上手く自分の中に位置づけることができなくて、そしてそういうものから遠離るためにここに入っているわけです。ここにいる限り私たちは他人を苦しめなくてすむし、他人から苦しめられなくてすみます。何故なら私たちはみんな自分たちが『歪んでいる』ことを知っているからです。そこが外部世界とはまったく違っているところです。外の世界では多くの人は自分の歪みを意識せずに暮らしています。でも私たちのこの小さな世界では歪みこそが前提条件なのです。私たちはインディアンが頭にその部族をあらわす羽根をつけるように、歪みを身につけています。そして傷つけあうことのないようにそっと暮らしているのです。



    運動をする他には、私たちは野菜を作っています。

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