第34章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3596更新时间 : 2017-07-31 14:04:04

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    レイコさんは煙草をくわえたまま楽しそうにテーブルの上で手を合わせた。「回復するのよ」と彼女は言った。煙草の灰がテーブルの上に落ちたが気にもしなかった。
 我々は本部の建物を出て小さな丘を越え、プールとテニス?コートとバスケット?コートのそばを通り過ぎた。テニス?コートでは男が二人でテニスの練習をしていた。やせた中年の男と太った若い男で、二人とも腕は悪くなかったが、それは僕の目にはテニスとはまったく異なった別のゲームのように思えた。ゲームをしているというよりはボールの弾性に興味があってそれを研究しているところといった風に見えるのだ。彼らは妙に考えこみながら熱心にボールのやりとりをしていた。そしてどちらもぐっしょりと汗をかいていた。手前にいた若い男がレイコさんの姿を見るとゲームを中断してやってきて、にこにこ笑いながら二言三言言葉をかわした。テニス?コートのわきでは大型の芝刈り機を持った男が無表情に芝を刈っていた。



    先に進むと林があり、林の中には洋風のこぢんまりとした住宅が距離をとって十五か二十散らばって建っていた。大抵の家の前には門番が乗っていたのと同じ黄色い自転車が置いてあった。ここにはスタッフの家族が住んでるのよ、とレイコさんが教えてくれた。



    「町に出なくても必要なものは何でもここで揃うのよ」とレイコさんは歩きながら僕に説明した。「食料品はさっきも言ったように殆んど自給自足でしょ。養鶏場もあるから玉子も手に入るし。本もレコードも運動設備もあるし、小さなスーパー?マーケットみたいなのもあるし、毎週理容師もかよってくるし。週末には映画だって上映するのよ。町に出るスタッフの人に特別な買い物は頼めるし、洋服なんかはカタログ注文できるシステムがあるし、まず不便はないわね」



    「町に出ることはできないんですか?」と僕は質問した。



    「それは駄目よ。もちろんたとえば歯医者に行かなきゃならないとか、そういう特殊なことがあればそれは別だけれど、原則的にはそれは許可されていないの。ここを出て行くことは完全にその人の自由だけれど、一度出て行くともうここには戻れないの。橋を焼くのと同じよ。ニ、三日町に出てまたここに戻ってということはできないの。だってそうでしょう?そんなことしたら、出たり入ったりする人ばかりになっちゃうもの」



    林を抜けると我々はなだらかな斜面に出た。斜面には奇妙な雰囲気のある木造の二階建て住宅が不規則に並んでいた。どこかどう奇妙なのかと言われてもうまく説明できないのだが、最初にまず感じるのはこれらの建物はどことなく奇妙だということだった。それは我々が非現実を心地よく描こうとした絵からしばしば感じ取る感情に似ていた。ウォルト?ディズニーがムンクの絵をもとに漫画映画を作ったらあるいはこんな風になるのかもしれないなと僕はふと思った。建物はどれもまったく同じかたちをしていて、同じ色に塗られていた。かたちはほぼ立方体に近く、左右が対称で入口が広く、窓がたくさんついていた。その建物のあいだをまるで自動車教習所のコースみたいにくねくねと曲った道が通っていた。どの建物の前にも草花が植えられ、よく手入れされていた。人影はなく、どの窓もカーテンが引かれていた。



    「ここはC地区と呼ばれているところで、ここには女の人たちが住んでいるの。つまり私たちよね。こういう建物が十棟あって、一棟が四つに区切られて、一区切りに二人住むようになってるの。だから全部で八十人は住めるわけよね。今のところ三十二人しか住んでないけど」



    「とても静かですね」と僕は言った。



    「今の時間は誰もいないのよ」とレイコさんは言った。「私はとくべつ扱いだから今こうして自由にしてるけれど、普通の人はみんなそれぞれのカリキュラムに従って行動してるの。運動している人もいるし、庭の手入れしている人もいるし、グループ療法している人もいるし、外に出て山菜を集めている人たちもいるし。そういうのは自分で決めてカリキュラムを作るわけ。直子は今何してたっけ?壁紙の貼り替えとかペンキの塗り替えとかそういうのやってるんじゃなかったかしらね。忘れちゃったけど。そういうのがだいたい五時くらいまでいくつかあるのよ」



    彼女は<C-7>という番号のある棟の中に入り、つきあたりの階段を上って右側のドアを開けた。ドアには鍵がかかっていなかった。レイコさんは僕に家の中を案内して見せてくれた。居間とベッドルームとキッチンとバスルームの四室から成ったシンプルで感じの良い住居で、余分な飾りつけもなく、場違いな家具もなく、それでいて素っ気ないという感じはしなかった。とくに何かがどうというのではないのだが、部屋の中にいるとレイコさんを前にしている時と同じように、体の力を抜いてくつろぐことができた。居間にはソファーがひとつとテーブルがあり、揺り椅子があった。キッチンには食事用のテーブルがあった。どちらのテーブルの上にも大きな灰皿が置いてあった。ベッドルームにはベッドがふたつと机がふたつとクローゼットがあった。ベッドの枕元には小さなテーブルと読書灯があり、文庫本が伏せたまま置いてあった。キッチンには小型の電気のレンジと冷蔵庫がセットになったものが置いてあって、簡単な料理なら作れるようになっていた。



    「お風呂はなくてシャワーだけだけどまあ立派なもんでしょう?」とレイコさんは言った。「お風呂と洗濯設備は共同なの」



    「十分すぎるくらい立派ですよ。僕の住んでる寮なんて天井と窓しかないもの」



    「あなたはここの冬を知らないからそういうのよ」とレイコさんは僕の背中を叩いてソファーに座らせ、自分もそのとなりに座った。「長くて辛い冬なのよ、ここの冬は。どこを見まわしても雪、雪、雪でね、じっとりと湿って体の芯まで冷えちゃうの。私たち冬になると毎日毎日雪かきして暮すのよ。そういう季節にはね、私たち部屋を暖かくして音楽聴いたりお話したり編みものしたりして過すわけ。だからこれくらいのスペースがないと息がつまってうまくやっていけないのよ。あなたも冬にここにくればそれよくわかるわよ」



    レイコさんは長い冬のことを思い出すかのように深いため息をつき、膝の上で手を合わせた。「これを倒してベッド作ってあげるわよ」と彼女は二人の座っているソファーをぽんぽんと叩いた。「私たち寝室で寝るから、あなたここで寝なさい。それでいいでしょう?」



    「僕の方はべつに構いませんと」



    「じゃ、それで決まりね」とレイコさんは言った。「私たちたぶん五時頃にここに戻ってくると思うの。それまで私にも直子にもやることがあるから、あなた一人でここで待ってほしいんだけれど、いいかしら?」



    「いいですよ、ドイツ語の勉強してますから」



    レイコさんが出ていってしまうと僕はソファーに寝転んで目を閉じた。そして静かさの中に何ということもなくしばらく身を沈めているうちに、ふとキズキと二人でバイクに乗って遠出したときのことを思い出した。そういえばあれもたしか秋だったなあと僕は思った。何年前の秋だっけ?四年前だ。僕はキズキの革ジャンパーの匂いとあのやたら音のうるさいヤマハの一ニ五CCの赤いバイクのことを思い出した。我々はずっと遠くの海岸まで出かけて、夕方にくたくたになって戻ってきた。別に何かとくべつな出来事があったわけではないのだけれど、僕はその遠出のことをよく覚えていた。秋の風が耳もとで鋭くうなり、キズキのジャンパーを両手でしっかりと掴んだまま空を見上げると、まるで自分の体が宇宙に吹き飛ばされそうな気がしたものだった。



    長いあいだ僕は同じ姿勢でソファーに身を横たえて、その当時のことを次から次へと思い出していた。どうしてかはわからないけれど、この部屋の中で横になっていると、これまであまり思い出したことのない昔の出来事や情景が次々に頭に浮かんできた。あるものは楽しく、あるものは少し哀しかった。



    どれくらいの時間そんな風にしていたのだろう、僕はそんな予想もしなかった記憶の洪水(それは本当に泉のように岩の隙間からこんこんと湧き出していたのだ)にひたりきっていて、直子がそっとドアを開けて部屋に入ってきたことに気づきもしなかったくらいだった。

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