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ママ大変だった。大忙しで、「海のものと山のもの」のお弁当を作り、トットちゃんに朝ごはんを食べさせ、毛糸で編んだヒモを通した、セルロイドの定期入れを、トットちゃんの首にかけた。これは定期を、なくさないためだった、パパは「いい子でね」と頭をヒシャヒシャにしたまま言った。「もちろん!」と、トットちゃんは言うと、玄関で靴を履き、戸を開けると、クルリと家の中を向き、丁寧にお辞儀をして、こういった。 「みなさま、行ってまいります」 見送りに立っていたママは、ちょっと涙でそうになった。それは、こんなに生き生きとしてお行儀よく、素直で、楽しそうにしてるトットちゃんが、つい、このあいだ、「退学になった」、ということを思い出したからだった。(新しい学校で、うまくいくといい……)ママは心からそう祈った。 ところが、次の瞬間、ママは、飛び上がるほど驚いた。というのは、トットちゃんが、せっかくママが首からかけた定期を、ロッキーの首にかけているのを見たからだった。ママは、(一体どうなるのだろう?)と思ったけど、だまって、成り行きを見ることにした。トットちゃんは、定期をロッキーの首にかけると、しゃがんで、ロッキーに、こういった。 「いい?この定期のヒモは、あんたに、合わないのよ」 確かに、ロッキーにはヒモが長く、定期は地面を引きずっていた。 「わかった?これは私の定期で、あんたのじゃないから、あんたは電車に乗れないの。校長先生に聞いてみるけど、駅の人にも。で「いい」っていったら、あんたも学校に来られるんだけど、どうかなあ」 ロッキーは、途中までは、耳をピンと立てて神妙に聞いていたけど、説明の終わりのところで、定期を、ちょっと、なめてみて、それから、あくびをした。それでも、トットちゃんは、一生懸命に話し続けた。 「電車の教室は、動かないから、お教室では、定期はいらないと思うんだ。とにかく、今日は持ってるのよ」 たしかにロッキーは、今まで、歩いて通う学校の門まで、毎日、トットちゃんと一緒に行って、後は、一人で家に帰ってきていたから、今日も、そのつもりでいた。 トットちゃんは、定期をロッキーの首からはずすと、大切そうに自分の首にかけると、パパとママに、もう一度、 「行ってまいりまーす」 というと、今度は振り返らずに、ランドセルをカタカタいわせて走り出した。ロッキーも、からだをのびのびさせながら、並んで走り出した。 駅までの道は、前の学校に行く道と、ほとんど変わらなかった。だから、途中でトットちゃんは、顔見知りの犬や猫や、前の同級生と、すれ違った。トットちゃんは、その度に、「定期を見せて、驚かせてやろうかな?」と思ったけど、(もし遅くなったら大変だから、今日は、よそう……)と決めて、どんどん歩いた。 駅のところに来て、いつもなら左に行くトットちゃんが、右に曲がったので、可哀そうにロッキーは、とても心配そうに立ち止って、キョロキョロした。トットちゃんは、改札口のところまで行ったんだけど、戻ってきて、まだ不思議そうな顔をしてるロッキーにいった。 「もう、前の学校には行かないのよ。新しい学校に行くんだから」 それからトットちゃんは、ロッキーの顔に、自分の顔をくっつけ、ついでにロッキーの耳の中の、においをかいだ。(いつもと同じくらい、くさいけれど、私には、いい、におい!)そう思うと顔を離して、「バイバイ」というと、定期を駅の人に見せて、ちょっと高い駅の階段を、登り始めた。ロッキーは、小さい声で鳴いて、トットちゃんが階段を上がっていくのを、いつまでも見送っていた。
電車の教室 トットちゃんが、きのう、校長先生から教えていただいた、自分の教室である、電車のドアに手をかけたとき、まだ校庭には、誰の姿も見えなかった。今と違って、昔の電車は、外から開くように、ドアに取手がついていた。両手で、その取手を持って、右に引くと、ドアは、すぐ開いた。トットちゃんは、ドキドキしながら、そーっと、首を突っ込んで、中を見てみた。 「わあーい」 これなら、勉強しながら、いつも旅行をしてるみたいじゃない。網棚もあるし、窓も全部、そのままだし。違うところは、運転手さんの席のところに黒板があるのと、電車の長い腰掛を、はずして、生徒用の机と腰掛が進行方向に向いて並んでいるのと、つり革が無いところだけ。後は、天井も床も、全部、電車のままになっていた。トットちゃんは靴を脱いで中に入り、誰でも腰掛けていたいくらい、気持ちのいい椅子だった。トットちゃんは、うれしくて、(こんな気に入った学校は、絶対に、お休みなんかしないで、ずーっとくる)と,強く心に思った。 それからトットちゃんは、窓から外を見ていた。すると、動いていないはずの電車なのに、校庭の花や木が、少し風に揺れているせいか、電車が走っているような気持ちになった。 「ああ、嬉しいなあー」 トットちゃんは、とうとう声に出して、そういった。それから、顔をぺったりガラス窓にくっつけると、いつも、嬉しいとき、そうするように、デタラメ歌を、うたいはじめた。 とても うれし うれし とても どうしてかっていえば…… そこまで歌ったとき、誰かが乗り込んできた。女の子だった。その子は、ノートと筆箱をランとセルから出して机の上に置くと、背伸びをして、網棚にランドセルをのせた。それから草履袋も、のせた。トットちゃんは歌をやめて、急いで、まねをした。次に、男の子が乗ってきた。その子は、ドアのところから、バスケットボールのように、ランドセルを、網棚に投げ込んだ。網棚の、網は、大きく波うつと、ランドセルを、投げ出した。ランドセルは、床に落ちた。その男の子は、「失敗!」というと、またもや、同じところから、網棚めがけて、投げ込んだ。今度は、うまく、おさまった。「成功!」と、その子は叫ぶと、すぐ、「失敗!」といって、机によじ登ると、網棚のランドセルを開けて、筆箱やノートを出した。そういうのを出すのを忘れたから、失敗だったに違いなかった。 こうして、九人の生徒が、トットちゃんの電車に乗り込んできて、それが、トモエ学園の、一年生の全員だった。 そしてそれは、同じ電車で旅をする、仲間だった。
授業 お教室が本当の電車で、“かわってる”と思ったトットちゃんが、次に“かわってる”と思ったのは、教室で座る場所だった。前の学校は、誰かさんは、どの机、隣は誰、前は誰、と決まっていた。ところが、この学校は、どこでも、次の日の気分や都合で、毎日、好きなところに座っていいのだった。 そこでトットちゃんは、さんざん考え、そして見回したあげく、朝、トットちゃんの次に教室に入ってきた女の子の隣に座ることに決めた。なぜなら、この子が、長い耳をした兎の絵のついた、ジャンパー?スカートをはいていたからだった。 でも、なによりも“かわっていた”のは、この学校の、授業のやりかただった。 普通の学校は、一時間目が国語なら、国語をやって、二時間目が算数なら、算数、という風に、時間割の通りの順番なのだけど、この学校は、まるっきり違っていた。何しろ、一時間目が始まるときに、その日、一日やる時間割の、全部の科目の問題を、女の先生が、黒板にいっぱいに書いちゃって、\ 「さあ、どれでも好きなのから、始めてください」といったんだ。だから生徒は、国語であろうと、算数であろうと、自分の好きなのから始めていっこうに、かまわないのだった。だから、作文の好きな子が、作文を書いていると、後ろでは、物理の好きな子が、アルコール?ランプに火をつけて、フラスコをブクブクやったり、何かを爆発させてる、なんていう光景は、どの教室でもみれらることだった。この授業のやり方は、上級になるにしたがって、その子供の興味を持っているもの、興味の持ち方、物の考え方、そして、個性、といったものが、先生に、はっきり分かってくるから、先生にとって、生徒を知る上で、何よりの勉強法だった。また、生徒にとっても、好きな学科からやっていい、というのは、嬉しいことだったし、嫌いな学科にしても、学校が終わる時間までに、やればいいのだから、何とか、やりくり出来た。従って、自習の形式が多く、いよいよ、分からなくなってくると、先生のところに聞きに行くか、自分の席に先生に来ていただいて、納得の行くまで、教えてもらう。そして、例題をもらって、また自習に入る。これは本当の勉強だった。だから、先生の話や説明を、ボンヤリ聞く、といった事は、無いにひとしかった。
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