第20章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3506更新时间 : 2017-07-31 14:04:03

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ねえ、私の学校このすぐ近くにあったのよ。ものすごく厳しい学校でね、私たちこっそり隠れて食べに来たもんよ。なにしろ外食してるところをみつかっただけで停学になる学校なんだもの」



     サングラスを外すと、緑はこの前見たときよりいくぶん眠そうな目をしていた。彼女は左の手首にはめた細い銀のブレスレットをいじったり、小指の先で目のきわをぽりぽりと掻いたりしていた。



     「眠いの?」と僕は言った。



     「ちょっとね。寝不足なのよ。何やかやと忙しくて。でも大丈夫、気にしないで」と彼女は言った。「この前ごめんなさいね。どうしても抜けられない大事な用事ができちゃったの。それも朝になって急にだから、どうしようもなかったのよ。あのレストランに電話をしようかと思ったんだけど店の名前も覚えてないし、あなたの家の電話だって知らないし。ずいぶん待った?」



     「べつにかまわないよ。僕は時間のあり余ってる人間だから」



     「そんなに余ってるの?」



     「僕の時間を少しあげて、その中で君を眠らせてあげたいくらいのものだよ」



     緑は頬杖をついてにっこり笑い、僕の顔を見た。「あなたって親切なのね」



     「親切なんじゃなくて、ただ単に暇なのさ」と僕は言った。「ところであの日君の家に電話したら、家の人が君は病院に言ったって言ってたけど、何かあったの?」



     「家に?」と彼女はちょっと眉のあいだにしわを寄せて言った。「どうして家の電話番号がわかったの?」



     「学生課で調べたんだよ、もちろん。誰でも調べられる」



     なるほど、という風に彼女は二、三度肯き、またブレスレットをいじった。「そうね、そういうの思いつかなかったわ。あなたの電話番号もそうすれば調べられたのにね。でも、その病院のことだけど、また今度話すわね。今あまり話したくないの。ごめんなさい。「



     「かまわないよ。なんだか余計なこと訊いちゃったみたいだな」



     「ううん、そんなことないのよ。私が今少し疲れてるだけ。雨にうたれた猿のように疲れているの」



     「家に帰って寝たほうがいいんじゃないかな」と僕は言ってみた。



     「まだ寝たくないわ。少し歩きましょうよ」と緑は言った。



     「彼女は四ツ谷の駅からしばらく歩いたところにある彼女の高校の前に僕をつれていった。四ツ谷の駅の前を通りすぎるとき僕はふと直子と、その果てしない歩行のことを思い出した。そういえばすべてはこの場所から始まったのだ。もしあの五月の日曜日に中央線の電車の中でたまたま直子に会わなかったら僕の人生も今とはずいぶん違ったものになっていただろうな、とぼくはふと思った。そしてそのすぐあとで、いやもしあのとき出会わなかったとしても結局は同じようなことになっていたかもしれないと思いなおした。多分我々はあのとき会うべくして会ったのだし、もしあのとき会っていなかったとしても、我々はべつのどこかであっていただろう。とくに根拠があるわけではないのだが、僕はそんな気がした。



     僕と小林緑は二人で公園のベンチに座って彼女の通っていた高校の建物を眺めた。校舎にはつたが絡まり、はりだしには何羽か鳩がとまって羽をやすめていた。趣きのある古い建物だった。庭には大きな樫の木がはえていて、そのわきから白い煙がすうっとまっすぐに立ちのぼっていた。夏の名残りの光が煙を余計にぼんやりと曇らせていた。



     「ワタナベ君、あの煙なんだか分かる?」突然緑が言った。



     わからない、と僕は言った。



     「あれ生理ナプキン焼いてるのよ」



     「へえ」と僕は言った。それ以上に何と言えばいいのかよくわからなかった。



     「生理ナプキン、タンポン、その手のもの」と言って緑はにっこりした。「みんなトイレの汚物入れにそういうの捨てるでしょ、女子校だから。それを用務員のおじいさんが集めてまわって焼却炉で焼くの。それがあの煙なの」



     「そう思ってみるとどことなく凄味があるね」と僕は言った。



     「うん、私も教室の窓からあの煙をみるたびにそう思ったわよ。凄いなあって。うちの学校は中学、高校あわせる千人近く女の子がいるでしょ。まあまだ始まってない子もいるから九百人として、そのうちの五分の一が生理中として、だいたい百八十人よね。で、一日に百八十人ぶんの生理ナプキンが汚物入れに捨てられるわけよね」



     「まあそうだろうね。細かい計算はよくわからないけど」



     「かなりの量だわよね。百八十人ぶんだもの。そういうの集めてまわって焼くのってどういう気分のものなのかしら?」



     「さあ、見当もつかない」と僕は言った。どうしてそんなことが僕にわかるというのだ。そして我々はしばらく二人でその白い煙を眺めた。



     「本当は私あの学校に行きたくなかったの。」と緑は言って小さく首を振った。「私はごく普通の公立の学校に入りたかったの。ごく普通の人がいくごく普通の学校に。そして楽しくのんびりと青春を過ごしたかったの。でも親の見栄であそこに入れられちゃったのよ。ほら小学校のとき成績が良いとそういうとこあるでしょ?先生がこの子の成績ならあそこに入れなすよ、ってね。で、入れられちゃったわけ。六年通ったけどどうしても好きになれなかったわ。一日も早くここを出ていきたい、一日も早くここを出ていきたいって、そればかり考えて学校に通ってたの。ねえ、私って無遅刻?無欠席で表彰までされたのよ。そんなに学校が嫌いだったのに。どうしてだかわかる?」



     「わからない」と僕は言った。



     「学校が死ぬほど嫌いだったからよ。だから一度も休まなかったの。負けるものかって思ったの。一度負けたらおしまいだって思ったの。一度負けたらそのままずるずる行っちゃうんじゃないかって怖かったのよ。三十九度の熱があるときだって這って学校に行ったわよ。先生がおい小林具合わるいんじゃないかって言っても、いいえ大丈夫ですって嘘ついてがんばったのよ。それで無遅刻?無欠席の表彰状とフランス語の辞書をもらったの。だからこそ私、大学でドイツ語をとったの。だってあの学校に恩なんか着せられちゃたまらないもの。そんなの冗談じゃないわよ。」



     「学校のどこが嫌いだったの?」



     「あなた学校好きだった?」



     「好きでもとくに嫌いでもないよ。僕はごく普通の公立高校に通ったけどとくに気にはしなかったな。」



     「あの学校ね」と緑は小指で目のわきを掻きながら言った。「エリートの女の子のあつまる学校なのよ。育ちも良きゃ成績も良いって女の子が千人近くあつめられてるの。ま、金持の娘ばかりね。。でなきゃやっていけないもの。授業料高いし、寄付もしょっちゅうあるし、修学旅行っていや京都の高級旅館を借りきって塗りのお膳で懐石料理食べるし、年に一回ホテル?オークラの食堂でテーブル?マナーの講習があるし、とにかく普通じゃないのよ。ねえ、知ってる?私の学年百六十人の中で豊島区に住んでる生徒って私だけだったのよ。私一度学生名簿を全部調べてみたの。みんないったいどんなところに住んでるだろうって。すごかったわねえ、千代田《ちよだ》区三番町、港区|元麻布《もとあざぶ》、大田区|田園調布《でんえんちょうふ》、世田谷《せたがや》区|成城《せいじょう》……もうずうっとそんなのばかりよ。一人だけ千葉県|柏市《かしわし》っていう女の子がいてね、私その子とちょっと仲良くなってみたの。良い子だったわよ。家にあそびにいらっしゃいよ、遠くてわるいけどっていうからいいわよって行ってみたの。仰天しちゃったわね。なにしろ敷地を一周するのに十五分かかるの。すごく庭があって、小型車くらい大きさの犬が二匹いて牛肉のかたまりをむしゃむしゃ食べてるわけ。

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