第46章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3522更新时间 : 2017-07-31 14:04:04

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    「ドイツ語やってますよ」と僕はため息をついて言った。



    「いい子ね、お昼前には戻ってくるからちゃんと勉強してるのよ」とレイコさんは言った。そして二人はクスクス笑いながら部屋を出で行った。何人かの人々が窓の下を通り過ぎていく足音や話し声が聞こえた。



    僕は洗面所に入ってもう一度顔を洗い。爪切りを借りて手の爪を切った。二人の女性が住んでいるにしてはひどくさっぱりとした洗面所だった。化粧クリームやリップ?クリームや日焼けどめやローションといったものがぱらぱらと並んでいるだけで、化粧品らしいものは殆んどなかった。爪を切ってしまうと僕は台所でコーヒーを入れ、テーブルの前に座ってそれを飲みながらドイツ語の教科書を広げた。台所の日だまりの中でTシャツ一枚になってドイツ語の文法表を片端から暗記していると、何だかふと不思議な気持になった。ドイツ語の不規則動詞とこの台所のテーブルはおよそ考えられる限りの遠い距離によって隔てられているような気がしたからだ。



    十一時半に農場から二人は帰ってきて順番にシャワーに入り、さっぱりした服に着がえた。そして三人で食堂に行って昼食をとり、そのあとで門まで歩いた。門衛小屋には今度はちゃんと門番がいて、食堂から運ばれてきたらしい昼食を机の前で美味しそうに食べていた。棚の上のトランジスタ?ラジオからは歌謡曲が流れていた。僕らが歩いていくと彼はやあと手をあげてあいさつし、僕らも「こんにちは」と言った。



    これから三人で外を散歩してくる、三時間くらいで戻ってくると思う、とレイコさんが言った。



    「ええ、どうぞ、どうぞ、ええ天気ですもんな。谷沿いの道はこないだの雨で崩れとるんで危ないですが、それ以外なら大丈夫、問題ないです」と門番は言った。レイコさんは外出者リストのような用紙に直子と自分の名前と外出日時を記入した。



    「気ィつけていってらしゃい」と門番は言った。



    「親切そうな人ですね」と僕は言った。



    「あの人ちょっとここおかしいのよ」とレイコさんは言って指の先で頭を押えた。



    いずれにせよ門番の言うとおり実に良い天気だった。空は抜けるように青く、細くかすれた雲がまるでペンキのためし塗りでもしたみたいに天頂にすうっと白くこびりついていた。我々はしばらく「阿美寮」の低い石塀に沿って歩き、それから塀を離れて、道幅の狭い急な坂道を一列になって上った。先頭がレイコさんで、まん中が直子で、最後は僕だった。レイコさんはこのへんの山のことなら隅から隅まで知っているといったしっかりした歩調でその細い坂道を上って行った。我々は殆んど口をきかずにただひたすら歩を運んだ。直子はブルージーンズと白いシャツという格好で、上着を脱いで手に持っていた。僕は彼女のまっすぐな髪が肩口で左右に揺れる様を眺めながら歩いた。直子はときどきうしろを振り向き、僕と目を合うと微笑んだ。上り道は気が遠くなるくらい長くつづいたが、レイコさんの歩調はまったく崩れなかったし、直子もときどき汗を拭きながら遅れることなくそのあとをついて行った。僕は山のぼりなんてしばらくしていないせいで息が切れた。



    「いつもこういう山のぼりしてるの?」と僕は直子に訊いてみた。



    「週に一回くらいかな」と直子は答えた。「きついでしょ、けっこう?」



    「いささか」と僕は言った。



    「三分の二はきたからもう少しよ。あなた男の子でしょう?しっかりしなくちゃ」とレイコさんが言った。



    「運動不足なんですよ」



    「女の子と遊んでばかりいるからよ」と直子が一人ごとみたいに言った。



    僕は何か言いかえそうとしたが、息が切れて言葉がうまく出てこなかった。時折目の前を頭に羽根かざりにようなものをつけた赤い鳥が横ぎっていた。青い空を背景に飛ぶ彼らの姿はいかにも鮮やかだった。まわりの草原には白や青や黄色の無数の花が咲き乱れ、いたるところに蜂の羽音が聞こえた。僕はまわりのそんな風景を眺めながらもう何も考えずにただ一歩一歩足を前に運んだ。



    それから十分ほどで坂道は終り、高原のようになった平坦な場所に出た。我々はそこで一服して汗を拭き、息と整え、水筒の水を飲んだ。レイコさんは何かの葉っぱをみつけてきて、それで笛を作って吹いた。



    道はなだらかな下りになり、両側にはすすきの穂が高くおい茂っていた。十五分ばかり歩いたところで我々は集落を通り過ぎたが、そこには人の姿はなく十二軒か十三軒の家は全て廃屋と化していた。家のまわりには腰の高さほど草が茂り、壁にあいた穴には鳩の糞がまっ白に乾いてこびりついていた。ある家は柱だけを残してすっかり崩れ落ちていたが、中には雨戸を開ければ今すぐにでも住みつけそうなものもあった。我々は死に絶えて無言の家々にはさまれた道を抜けた。



    「ほんの七、八年前まで、ここには何人か人が住んでたのよ」とレイコさんが教えてくれた。「まわりもずっと畑でね。でももうみんな出て行っちゃったわ。生活が厳しすぎるのよ。冬は雪がつもって身動きつかなくなるし、それほど土地が肥えているわけじゃないしね。町に出て働いた方がお金になるのよ」



    「もったいないですね。まだ十分使える家もあるのに」と僕は言った。



    「一時ヒッピーが住んでたこともあるんだけど、冬に音を上げて出て行ったわよ」



    集落を抜けてしばらく先に進むと垣根にまわりを囲まれた放牧場のようなものがあり、遠くの方に馬が何頭か草を食べているのが見えた。垣根に沿って歩いていくと、大きな犬が尻尾をばたばたと振りながら走ってきて、レイコさんにのしかかるようにして顔の匂いをかぎ、そのれから直子にとびかかってじゃれついた。僕が口笛を吹くとやってきて、長い舌でべろべろと僕の手を舐めた。



    「牧場の犬なのよ」と直子が犬の頭を撫でながら言った。「もう二十歳近くになっているじゃないかしら、歯が弱ってるから固いものは殆んど食べれないの。いつもお店の前で寝てて人の足音が聞こえるととんできて甘えるの」



    レイコさんがナップザックからチーズの切れはしをとりだすと、犬は匂いを嗅ぎつけてそちらにとんでいき、嬉しそうにチーズにかぶりついた。



    「この子と会えるのももう少しなのよ」とレイコさんは犬の頭を叩きながら言った。「十月半ばになると馬と牛をトラックにのせて下の方の牧舎につれていっちゃうのよ。夏場だけここで放牧して、草を食べさせて、観光客相手に小さなコーヒー?ハウスのようなものを開けてるの。観光客ったって、ハイカーが一日二十人くるかこないかってくらいのものだけどね。あなた何か飲みたくない、どう?」



    「いいですね」と僕は言った。



    犬が先に立って我々をそのコーヒー?ハウスまで案内した。正面にポーチのある白いペンキ塗りの小さな建物で、コーヒー?カップのかたちをした色褪せた看板が軒から下がっていた。犬は先に立ってポーチに上り、ごろんと寝転んで目を細めた。僕らがポーチのテーブルに座ると中からトレーナー?シャツとホワイト?ジーンズという格好の髪をポニー?テールにした女の子が出てきて、レイコさんと直子に親しい気にあいさつした。



    「この人直子のお友だち」とレイコさんが僕に紹介した。



    「こんにちは」とその女の子は言った。



    「こんにちは」と僕も言った。



    三人の女性がひとしきり世間話をしているあいだ、僕はテーブルの下の犬の首を撫でていた。犬の首はたしかに年老いて固く筋張っていた。その固いところをぼりぼりと掻いてやると、犬は気持良さそうに目をつぶってはあはあと息をした。



    「名前はなんていうの?」と僕は店の女の子に訪ねた。



    「ぺぺ」と彼女は言った。



    「ぺぺ」と僕は呼んでみたが、犬はびくりとも反応しなかった。

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