第50章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3535更新时间 : 2017-07-31 14:04:04

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彼は皿をわきに押しやって、メモ用紙にボールペンで脳の絵を描いてくれた。そして何度も「いやちょっと違うな、これ」と言っては描きなおした。そして描き終わると大事そうにメモ用紙を白衣のポケットにしまい、ボールペンを胸のポケットにさした。胸のポケットにはボールペンが三本と鉛筆と定規が入っていた。そして食べ終ると「ここの冬はいいですよ。この次は是非冬にいらっしゃい」と昨日と同じことを言って去っていた。



    「あの人は医者なんですか、それとも患者さんですか?」と僕はレイコさんに訊いてみた。



    「どっちだと思う?」



    「どちらか全然見当がつかないですね。いずれにせよあまりまともには見えないけど」



    「お医者よ。宮田先生っていうの」と直子が言った。



    「でもあの人この近所じゃいちばん頭がおかしいわよ。賭けてもいいけど」とレイコさんが言った。



    「門番の大村さんだって相当狂ってるわよねえ」と直子が言った。



    「うん、あの人狂ってる」とレイコさんがブロッコリーをフォークでつきさしながら肯いた。



    「だって毎朝なんだかわけのわからないこと叫びながら無茶苦茶な体操してるもの。それから直子の入ってくる前に木下さんっていう経理の女の子がいて、この人はノイローゼで自殺未遂したし、徳島っていう看護人は去年アルコール中毒がひどくなってやめさせられたし」



    「患者とスタッフを全部入れかえてもいいくらいですね」と僕は感心して言った。



    「まったくそのとおり」とレイコさんはフォークをひらひらと振りながら言った。「あなたもだんだん世の中のしくみがわかってきたみたいじゃない」



    「みたいですね」と僕は言った。



    「私たちがまとな点は」とレイコさんは言った。「自分たちがまともじゃないってかわっていることよね」
部屋に戻って僕と直子は二人でトランプ遊びをし、そのあいだレイコさんはまたギターを抱えてバッハの練習をしていた。



    「明日は何時に帰るの?」とレイコさんが手を休めて煙草に火をつけながら僕に訊いた。



    「朝食を食べたら出ます。九時すぎにバスが来るし、それなら夕方のアルバイトをすっぽかさずにすむし」



    「残念ねえ、もう少しゆっくりしていけばいいのに」



    「そんなことしてたら、僕もずっとここにいついちゃいそうですよ」と僕は笑って言った。



    「ま、そうね」とレイコさんは言った。それから直子に「そうだ、岡さんのところに行って葡萄もらってこなくっちゃ。すっかり忘れてた」と言った。



    「一緒に行きましょうか?」と直子が言った。



    「なあ、ワタナベ君借りていっていいかしら?」



    「いいわよ」



    「じゃ、また二人で夜の散歩に行きましょう」とレイコさんは僕の手をとって言った。「昨日はもう少しってとこまでだったから、今夜はきちんと最後までやっちゃいましょうね」



    「いいわよ、どうぞお好きに」と直子はくすくす笑いながら言った。



    風が冷たかったのでレイコさんはシャツの上に淡いブルーのカーディガンを着て両手をズボンのポケットにつっこんでいた。彼女は歩きながら空を見上げ、犬みたいにくんくんと匂いを嗅いだ。そして「雨の匂いがするわね」と言った。僕も同じように匂いを嗅いでみたが何の匂いもしなかった。空にはたしかに雲が多くなり、月もその背後に隠されてしまっていた。



    「ここに長くいると空気の匂いでだいたいの天気がわかるのよ」とレイコさんは言った。



    スタッフの住宅がある雑木林に入るとレイコさんはちょっと待っててくれと言って一人で一軒の家の前に行ってベルを押した。奥さんらしい女性が出てきてレイコさんと立ち話をし、クスクス笑いそれから中に入って今度は大きなビニール袋を持って出てきた。レイコさんは彼女にありがとう、おやすみなさいと言って僕の方に戻ってきた。



    「ほら葡萄もらってきたわよ」とレイコさんはビニール袋の中を見せてくれた。袋の中にはずいぶん沢山の葡萄の房が入っていた。



    「葡萄好き?」



    「好きですよ」と僕は言った。



    彼女はいちばん上の一房をとって僕に手わたしてくれた。「それ洗ってあるから食べられるわよ」



    僕は歩きながら葡萄を食べ、皮と種を地面に吹いて捨てた。瑞々しい味の葡萄だった。レイコさんも自分のぶんを食べた。



    「あそこの家の男の子にピアノをちょこちょこ教えてあげているの。そのお礼がわりにいろんなものくれるのよ、あの人たち。このあいだのワインもそうだし。市内でちょっとした買物もしてきてもらえるしね」



    「昨日の話のつづきが聞きたいですね」と僕は言った。



    「いいわよ」とレイコさんは言った。「でも毎晩帰りが遅くなると直子が私たちの仲を疑いはじめるんじゃないかしら?」



    「たとえそうなったとしても話のつづきを聞きたいですね」



    「OK、じゃあ屋根のあるところで話しましょう。今日はいささか冷えるから」



    彼女はテニス?コートの手前を左に折れ、狭い階段を下り、小さな倉庫が長屋のような格好でいくつか並んでいるところに出た。そしてそのいちばん手前の小屋の扉を開け、中に入って電灯のスイッチを入れた。「入りなさいよ。何もないところだけれど」



    倉庫の中にはクロス?カントリー用のスキー板とストックと靴がきちんと揃えられて並び、床には雪かきの道具や除雪用の薬品などが積み上げられていた。



    「昔はよくここにきてギターの練習したわ。一人になりたいときにはね。こぢんまりしていいところでしょう?」



    レイコさんは薬品の袋の上に腰をおろし、僕にも隣りに座れと言った。僕は言われたとおりにした。



    「少し煙がこもるけど、煙草吸っていいかしらね?」



    「いいですよ、どうぞ」と僕は言った。



    「やめられないのよね、これだけは」とレイコさんは顔をしかめながら言った。そしておいしそうに煙草を吸った。これくらおいしいそうに煙草を吸う人はちょっといない。僕は一粒一粒丁寧に葡萄を食べ、皮と種をゴミ箱がわりに使われているブリキ缶に捨てた。



    「昨日はどこまで話したっけ?」とレイコさんは言った。



    「嵐の夜に岩つばめの巣をとりに険しい崖をのぼっていくところまでですね」と僕は言った。



    「あなたって真剣な顔して冗談言うからおかしいわねえ」とレイコさんはあきれたように言った。「毎週土曜日の朝にその女の子にピアノを教えたっていうところまでだったわよね、たしか」



    「そうです」



    「世の中の人を他人に物を教えるのが得意と不得意な人にわけるとしたら私はたぶん前の方に入ると思うの」とレイコさんは言った。「若い頃はそう思わなかったけれど。まあそう思いたくないというのもあったんでしょうね、ある程度の年になって自分に見きわめみたいなのがついてから、そう思うようになったの。自分は他人に物を教えるのが上手いんだってね。私、本当に上手いのよ」



    「そう思います」と僕は同意した。



    「私は自分自身に対してよりは他人に対する方がずっと我慢づよいし、自分自身に対するよりは他人に対する方が物事の良い面を引きだしやすいの。私はそういうタイプの人間なのよ。マッチ箱のわきについているザラザラしたやつみたいな存在なのよ、要するに。でもいいのよ、それでべつに。そういうの私とくに嫌なわけじゃないもの。私、二流のマッチ棒よりは一流のマッチ箱の方が好きよ。はっきりとそう思うようになったのは、そうね、その女の子を教えるようになってからね。

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