第60章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3520更新时间 : 2017-07-31 14:04:05

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こいつらみんなインチキだって。適当に偉そうな言葉ふりまわしていい気分になって、新入生の女の子を感心させて、スカートの中に手をつっこむことしか考えてないのよ、あの人たち。そして四年生になったら髪の毛短くして三菱商事だのTBSだのIBMだの富士銀行だのにさっさと就職して、マルクスなんて読んだこともないかわいい奥さんもらって子供にいやみったらしい凝った名前つけるのよ。何が産学協同体粉砕よ。おかしくって涙が出てくるわよ。他の新入生だってひどいわよ。みんな何もわかってないのにわかったような顔してへらへらしてるんだもの。そしてあとで私に言うのよ。あなた馬鹿ねえ、わかんなくだってハイハイそうですねって言ってりゃいいのよって。ねえ、もっと頭に来たことあるんだけど聞いてくれる?」



    「聞くよ」



    「ある日私たち夜中の政治集会に出ることになって、女の子たちはみんな一人二十個ずつの夜食用のおにぎり作って持ってくることって言われたの。冗談じゃないわよ、そんな完全な性差別じゃない。でもまあいつも波風立てるのもどうかと思うから私何にも言わずにちゃんとおにぎり二十個作っていったわよ。梅干しいれて海苔まいて。そうしたらあとでなんて言われたと思う?小林のおにぎりは中に梅干ししか入ってなかった、おかずもついてなかったって言うのよ。他の女の子のは中に鮭やタラコが入っていたし、玉子焼なんかがついてたりしたんですって。もうアホらしくて声も出なかったわね。革命云々を論じている連中がなんで夜食のおにぎりのことくらいで騒ぎまわらなくちゃならないのよ、いちいち。海苔がまいてあって中に梅干しが入ってりゃ上等じゃないの。インドの子供のこと考えてごらんなさいよ」



    僕は笑った。「それでそのクラブはどうしたの?」



    「六月にやめたわよ、あんまり頭にきたんで」と緑は言った。「でもこの大学の連中は殆んどインチキよ。みんな自分が何かをわかってないことを人に知られるのが怖くってしようがなくてビクビクした暮らしてるのよ。それでみんな同じような本を読んで、みんな同じような言葉ふりまわして、ジョン?コルトレーン聴いたりパゾリーニの映画見たりして感動してるのよ。そういうのが革命なの?」



    「さあどうかな。僕は実際に革命を目にしたわけじゃないからなんとも言えないよね」



    「こういうのが革命なら、私革命なんていらないわ。私きっとおにぎりに梅干ししか入れなかったっていう理由で銃殺されちゃうもの。あなただってきっと銃殺されちゃうわよ。仮定法をきちんと理解してるというような理由で」



    「ありうる」と僕は言った。



    「ねえ、私にはわかっているのよ。私は庶民だから。革命が起きようが起きまいが、庶民というのはロクでもないところでぼちぼちと生きていくしかないんだっていうことが。革命が何よ?そんなの役所の名前が変わるだけじゃない。でもあの人たちにはそういうのが何もわかってないのよ。あの下らない言葉ふりまわしてる人たちには。あなた税務署員って見たことある?」



    「ないな」



    「私、何度も見たわよ。家の中にずかずか入ってきて威張るの。何、この帳簿?おたくいい加減な商売やってるねえ。これ本当に経費なの?領収書見せなさいよ、領収書、なんてね。私たち隅の方にこそっといて、ごはんどきになると特上のお寿司の出前とるの。でもね、うちのお父さんは税金ごまかしたことなんて一度もないのよ。本当よ。あの人そういう人なのよ、昔気質で。それなのに税務署員ってねちねちねちねち文句つけるのよね。収入がちょっと少なすぎるんじゃないの、これって。冗談じゃないわよ。収入が少ないのはもうかってないからでしょうが。そういうの聞いてると私悔しくってね。もっとお金持ちのところ行ってそういうのやんなさいよってどなりつけたくなってくるのよ。ねえ、もし革命が起ったら税務署員の態度って変ると思う?」



    「きわめて疑わしいね」



    「じゃあ私、革命なんて信じないわ。私は愛情しか信じないわ」



    「ピース」と僕は言った。



    「ピース」と緑も言った。



    「我々は何処に向かっているんだろう、ところで?」と僕は訊いてみた。



    「病院よ。お父さんが入院していて、今日いちにち私がつきそってなくちゃいけないの。私の番なの」



    「お父さん?」と僕はびっくりして言った。「お父さんはウルグァイに行っちゃったんじゃなかったの?」



    「嘘よ、そんなの」と緑はけろりとした顔で言った。「本人は昔からウルグァイに行くだってわめいてるけど、行けるわけないわよ。本当に東京の外にだってロクに出られないんだから」



    「具合はどうなの?」



    「はっきり言って時間の問題ね」



    我々はしばらく無言のまま歩を運んだ。



    「お母さんの病気と同じだからよくわかるよ。脳腫瘍。信じられる?二年前にお母さんそれで死んだばかりなのよ。そしたら今度はお父さんが脳種瘍」



    



    大学病院の中は日曜日というせいもあって見舞客と軽い症状の病人でごだごだと混みあっていた。そしてまぎれもない病院の匂いが漂っていた。消毒薬と見舞いの花束と小便と布団の匂いがひとつになって病院をすっぽりと覆って、看護婦がコツコツと乾いた靴音を立ててその中を歩きまわっていた。



    緑の父親は二人部屋の手前のベットに寝ていた、彼の寝ている姿は深手を負った小動物を思わせた。横向きにぐったりと寝そべり、点滴の針のささった左腕だらんとのばしたまま身動きひとつしなかった。やせた小柄な男だったが、これからもっとやせてもと小さくなりそうだという印象を見るものに与えていた。頭には白い包帯がまきつけられ、青白い腕には注射だか点滴の針だかのあとが点々とついていた。彼は半分だけ開けた目で空間の一点をぼんやりと見ていたが、僕が入っていくとその赤く充血した目を少しだけ動かして我々の姿を見た。そして十秒ほど見てからまた空間の一点にその弱々しい視線を戻した。



    その目を見ると、この男はもうすぐ死ぬのだということが理解できた。彼の体には生命力というものが殆んど見うけられなかった。そこにあるものはひとつの生命の弱々しい微かな痕跡だった。それは家具やら建具やらを全部運び出されて解体されるのを待っているだけの古びた家屋のようなものだった。乾いた唇のまわりにはまるで雑草のようにまばらに不精髭がはえていた。これほど生命力を失った男にもきちんと髭だけははえてくるんだなと僕は思った。



    緑は窓側のベットに寝ている肉づきの良い中年の男に「こんにちは」と声をかけた。相手はうまくしゃべれないらしくにっこりと肯いただけだった。彼は二、三度咳をしてから枕もとに置いてあった水を飲み、それからもそもそと体を動かして横向けになって窓の外に目をやった。窓の外には電柱と電線が見えた。その他には何にも見えなかった。空には雲の姿すらなかった。



    「どう、お父さん、元気?」と緑が父親の耳の穴に向けってしゃべりかけた。まるでマイクロフォンのテストをしているようなしゃべり方だった。「どう、今日は?」



    父親はもそもそと唇を動かした。<よくない>と彼は言った。しゃべるというのではなく、喉の奥にある乾いた空気をとりあえず言葉に出してみたといった風だった。<あたま>と彼は言った。



    「頭が痛いの?」と緑が訊いた。



    <そう>と父親が言った。四音節以上の言葉はうまくしゃべれないらしかった。



    「まあ仕方ないわね。手術の直後だからそりゃ痛むわよ。可哀そうだけど、もう少し我慢しなさい」と緑は言った。「この人ワタナベ君。私のお友だち」



    はじめまして、と僕は言った。父親は半分唇を開き、そして閉じた。



    「そこに座っててよ」と緑はベットの足もとにある丸いビニールの椅子を指した。

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