第64章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3521更新时间 : 2017-07-31 14:04:05

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僕のしゃべっていることを彼がいささかなりとも理解しているのかどうかその目から判断できなかった。



    「ピース」と僕は言った。



    それだけしゃべってしまうと、ひどく腹が減ってきた。朝食を殆んど食べなかった上に、昼の定食も半分残してしまったからだ。僕は昼をきちんと食べておかなかったことをひどく後悔したが、後悔してどうなるどういうものでもなかった。何か食べものがないかと物入れの中を探してみたが、海苔の缶とヴィックス?ドロップと醤油があるだけだった。紙袋の中にキウリとグレープフルーツがあった。



    「腹が減ったんでキウリ食べちゃいますけどかまいませんかね」と僕は訊ねた。



    緑の父親は何も言わなかった。僕は洗面所で三本のキウリを洗った。そして皿に醤油を少し入れ、キウリに海苔を巻き、醤油をつけてぽりぽりと食べた。



    「うまいですよ」と僕は言った。「シンプルで、新鮮で、生命の香りがします。いいキウリですね。キウイなんかよりずっとまともな食いものです」



    僕は一本食べてしまうと次の一本にとりかかった。ぽりぽりというとても気持の良い音が病室に響きわたった。キウリを丸ごとと二本食べてしまうと僕はやっと一息ついた。そして廊下にあるガス?コンロで湯をかわし、お茶を入れて飲んだ。



    「水かジュース飲みますか?」と僕は訊いてみた。



    <キウリ>と彼は言った。



    僕はにっこり笑った。「いいですよ。海苔つけますか?」



    彼は小さく肯いた。僕はまたベットを起こし、果物ナイフで食べやすい大きさに切ったキウリに海苔を巻き、醤油をつけ、楊子に刺して口に運んでやった。彼は殆んど表情を変えずにそれを何度も何度も噛み、そして呑みこんだ。



    <うまい>と彼は言った。



    「食べものがうまいっていいもんです。生きている証しのようなもんです」



    結局彼はキウリを一本食べてしまった。キウリを食べてしまうと水を飲みたがったので、僕はまた水さしで飲ませてやった。水を飲んで少しすると小便したいと言ったので、僕はベットの下からしびんを出し、その口をベニスの先にあててやった。僕は便所に行って小便を捨て、しびんを水で洗った。そして病室に戻ってお茶の残りを飲んだ。



    「気分どうですか?」と僕は訊いてみた。



    <すこし>と彼は言った。<アタマ>



    「頭が少し痛むんですか?」



    そうだ、というように彼は少し顔をしかめた。



    「まあ手術のあとだから仕方ありませんよね。僕は手術なんてしたことないからどういうもんだかよくわからないけれど」



    <キップ>と彼は言った。



    「切符?なんの切符ですか?」



    <ミドリ>と彼は言った。<キップ>



    何のことかよくわからなかったので僕は黙っていた。彼もしばらく黙っていた。それから<タノム>と言った。「頼む」ということらしかった。彼しっかりと目を開けてじっと僕の顔を見ていた。彼は僕に何かを伝えたがっているようだったが、その内容は僕には見当もつかなかった。



    <ウエノ>と彼は言った。<ミドリ>



    「上野駅ですか?」



    彼は小さく肯いた。



    「切符?緑?頼む?上野駅」と僕はまとめてみた。でも意味はさっぱりわからなかった。たぶん意識が混濁しているのだろうと僕は思ったが、目つきがさっきに比べていやにしっかりしていた。彼は点滴の針がささっていない方の手を上げて僕の方にのばした。そうするにはかなりの力が必要であるらしく、手は空中でぴくぴくと震えていた。僕は立ちあがってそのくしゃくしゃとした手を握った。彼は弱々しく僕の手を握りかえし、<タノム>とくりかえした。



    切符のことも緑さんもちゃんとしますから大丈夫です、心配しなくてもいいですよ、と僕が言うと彼は手を下におろし、ぐったりと目を閉じた。そして寝息を立てて眠った。僕は彼が死んでいないことをたしかめてから外に出て湯をわかし、またお茶を飲んだ。そして自分がこの死にかけている小柄な男に対して好感のようなものを抱いていることに気づいた。



    



    少しあとで隣りの奥さんが戻ってきて大丈夫だった?と僕に訊ねた。ええ大丈夫ですよ、と僕は答えた。彼女の夫もすうすうと寝息を立てて平和そうに眠っていた。



    緑は三時すぎに戻ってきた。



    「公園でぼおっとしてたの」と彼女は言った。「あなたに言われたように、一人で何もしゃべらずに、頭の中を空っぽにして」



    「どうだった?」



    「ありがとう。とても楽になったような気がするわ。まだ少しだるいけれど、前に比べるとずいぶん体が軽くなったもの。私、自分自身で思っているより疲れてたみたいね」



    父親はぐっすり眠っていたし、とくにやることもなかったので、我々は自動販売機のコーヒーを買ってTV室で飲んだ。そして僕は緑に、彼女のいないあいだに起った出来事をひとつひとつ報告した。ぐっすり眠って起きて、昼食の残りを半分食べ、僕がキウリをかじっていると食べたいと言って一本食べ、小便して眠った、と。



    「ワタナベ君、あなたってすごいわね」と緑は感心して言った。「あの人ものを食べなくてそれでみんなすごく苦労してるのに、キウリまで食べさせちゃうんだもの。信じられないわね、もう」



    「よくわからないけれど、僕がおいしそうにキウリを食べてたせいじゃないかな」と僕は言った。



    「それともあなたには人をほっとさせる能力のようなものがあるのかしら?」



    「まさか」と言って僕は笑った。「逆のことを言う人間はいっばいいるけれどね」



    「お父さんのことどう思った?」



    「僕は好きだよ。とくに何を話したってわけじゃないけれど、でもなんとなく良さそうな人だっていう気はしたね」



    「おとなしかった?」



    「とても」



    「でもね一週間前は本当にひどかったのよ」と緑は頭を振りながら言った。「ちょっと頭がおかしくなっててね、暴れたの。私にコップ投げつけてね、馬鹿野郎、お前なんか死んじまえって言ったの。この病気ってときどきそういうことがあるの。どうしてだかわからないけれど、ある時点でものすごく意地わるくなるの。お母さんのときもそうだったわ。お母さんが私に向ってなんて言ったと思う?お前は私の子じゃないし、お前のことなんか大嫌いだって言ったのよ。私、目の前が一瞬真っ暗になっちゃった。そういうのって、この病気の特徴なのよ。何かが脳のどこかを圧迫して、人を荷立たせて、それであることないこと言わせるのよ。それはわかっているの、私にも。でもわかっていても傷つくわよ、やはり。これだけ一所懸命やっていて、その上なんでこんなこと言われなきゃならないんだってね。情なくなっちゃうの」



    「わかるよ、それは」と僕は言った。それから僕は緑の父親がわけのわからいことを言ったのを思いだした。



    「切符、上野駅?」と緑は言った。「なんのことかしら?よくわからないわね」



    「それから<頼む><ミドリ>って」



    「それは私のことを頼むって言ったんじゃないの?」



    「あるいは君に上に駅に切符を買いにいってもらいたいのかもしれないよ」と僕は言った。「とにかくその四つの言葉の順番がぐしゃぐしゃだから意味がよくわからないんだ。上野駅で何か思いあたることない?」



    「上野駅……」と言って緑は考えこんだ。「上野駅で思いだせるといえば私が二回家出したことね。小学校三年のときと五年のときで、どちらのときも上野から電車に乗って福島まで行ったの。

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