第65章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3521更新时间 : 2017-07-31 14:04:05

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レジからお金とって。何かで頭に来て、腹いせでやったのよ。福島に伯母の家があって、私その伯母のことわりに好きだったんで、そこに行ったのよ。そうするとお父さんが私を連れて帰るの。福島まで来て。二人で電車に乗ってお弁当を食べながら上野まで帰るのよ。そういうときね、お父さんはすごくポツポツとだけれど、私にいろんな話してくれるの。関東大震災のときの話だとか、戦争のときの話だとか、私が生まれた頃の話だとか、そういう普段あまりしたことないよう話ね。考えてみたら私とお父さんが二人きりでゆっくり話したのなんてそのときくらいだったわね。ねえ、信じられる?うちのお父さん、関東大震災のとき東京のどまん中にいて地震のあったことすら気がつかなかったのよ」



    「まさか」と僕は唖然として言った。



    「本当なのよ、それ。お父さんはそのとき自転車にリヤカーつけて小石川のあたり走ってたんだけど、何も感じなかったんですって。家に帰ったらそのへん瓦がみんな落ちて、家族は柱にしがみついてガタガタ震えてたの。それでお父さんはわけわからなくて『何やってるんだ、いったい?』って訊いたんだって。それがお父さんの関東大震災の思い出話」緑はそう言って笑った。



    「お父さんの思い出話ってみんなそんな風なの。全然ドラマティックじゃないのね。みんなどこかずれてるのよ、コロッて。そういう話を聞いているとね、この五十年か六十年くらい日本にはたいした事件なんか何ひとつ起らなかったような気になってくるの。二?二六事件にしても太平洋戦争にしても、そう言えばそういうのあったっけなあっていう感じなの。おかしいでしょう?



    そういう話をポツポツとしてくれるの。福島から上野に戻るあいだ。そして最後にいつもこういうの。どこいったって同じだぞ、ミドリって。そう言われるとね、子供心にそうなのかなあって思ったわよ」



    「それが上野駅の思い出話?」



    「そうよ」と緑は言った。「ワタナベ君は家出したことある?」



    「ないね」



    「どうして?」



    「思いつかなかったんだよ。家出するなんて」



    「あなたって変わってるわね」と緑は首をひねりながら感心したように言った。



    「そうかな」と僕は言った。



    「でもとにかくお父さんはあなたに私のこと頼むって言いたかったんだと思うわよ」



    「本当?」



    「本当よ。私にはそういうのよくわかるの、直感的に。で、あなたなんて答えたの?」



    「よくわからないから、心配ない、大丈夫、緑ちゃんも切符もちゃんとやるから大丈夫ですって言っといたけど」



    「じゃあお父さんにそう約束したのね?私の面倒みるって?」緑はそう言って真剣な顔つきで僕の目をのぞきこんだ。



    「そうじゃないよ」と僕はあわてて言いわけした。「何がなんだかそのときよくわからなかったし――」



    「大丈夫よ、冗談だから。ちょっとからかっただけよ」緑はそう言って笑った。「あなたってそいうところすごく可愛いのね」



    コーヒーを飲んでしまうと僕と緑は病室に戻った。父親はまだぐっすりと眠っていた。耳を近づけると小さな寝息が聞こえた。午後が深まるにつれて窓の外の光はいかにも秋らしいやわらかな物静かな色に変化していった。鳥の群れがやってきて電線にとまり、そして去っていた。僕と緑は部屋の隅に二人で並んで座って、小さな声でいろんな話をした。彼女は僕の手相を見て、あなたは百五歳まで生きて三回結婚して交通事故で死ぬと予言した。悪くない人生だな、と僕は言った。



    四時すぎに父親が目をさますと、緑は枕もとに座って、汗を拭いたり、水を飲ませたり頭の痛みのことを訊いたりした。看護婦がやってきた熱を測り、小便の回数をチェックし点滴の具合をたしかめた。僕はTV室のソファーに座ってサッカー中継を少し見た。



    「そろそろ行くよ」と五時に僕は言った。それから父親に向かって「今からアルバイト行かなきゃならないんです」と説明した。「六時から十時半まで新宿でレコード売るんです」



    彼は僕の方に目を向けて小さく肯いた。



    「ねえ、ワタナベ君。私今あまりうまく言えないんだけれど、今日のことすごく感謝してるのよ。ありがとう」と玄関のロビーで緑が僕に言った。



    「それほどのことは何もしてないよ」と僕は言った。「でももし僕で役に立つのならまた来週も来るよ。君のお父さんにももう一度会いたいしね」



    「本当?」



    「どうせ寮にいたってたいしたやることもないし、ここにくればキウリも食べられる」



    緑は腕組みをして、靴のかかとでリノリウムの床をとんとんと叩いていた。



    「今度また二人でお酒飲みに行きたいな」と彼女はちょっと首をかしげるようにして言った。



    「ポルノ映画?」



    「ポルノ見てからお酒飲むの」と緑は言った。「そしていつものように二人でいっばいいやらしい話をするの」



    「僕はしてないよ。君がしてるんだ」と僕は抗議した。



    「どっちだっていいわよ。とにかくそういう話をしながらいっばいお酒飲んでぐでんぐでんに酔払って、一緒に抱きあって寝るの」



    「そのあとはだいたい想像つくね」と僕はため息をついて言った。「僕がやろうとすると、君が拒否するんだろう?」



    「ふふん」と彼女は言った。



    「まあとにかくまた今朝みたいに朝迎えに来たくれよ、来週の日曜日に。一緒にここに来よう」



    「もう少し長いスカートはいて?」



    「そう」と僕は言った。



    



    でも結局その翌週の日曜日、僕は病院に行かなかった。緑の父親が金曜日の朝に亡くなってしまったからだ。



    その朝の六時半に緑が僕に電話で、それを知らせた。電話がかかってきていることを教えるブザーが鳴って、僕はパジャマの上にカーディガンを羽織ってロビーに降り、電話をとった。冷たい雨が音もなく降っていた。お父さんさっき死んじゃったの、と小さな静かな声で緑が言った。何かできることあるかな、と僕は訊いてみた。



    「ありがとう、大丈夫よ」と緑は言った。「私たちお葬式に馴れてるの。ただあなたに知せたかっただけなの」



    彼女はため息のようなものをついた。



    「お葬式には来ないでね。私あれ嫌いなの。ああいうところであなたに会いたくないの」



    「わかった」と僕は言った。



    「本当にポルノ映画につれてってくれる?」



    「もちろん」



    「すごくいやらしいやつよ」



    「ちゃんとっ探しておくよ、そういうのを」



    「うん。私の方から連絡するわ」と緑は言った。そして電話を切った。



    



    しかしそれ以来一週間、彼女からは何の連絡もなかった。大学の教室でも会わなかったし、電話もかかってこなかった。寮に帰るたびに僕への伝言メモがないかと気にして見ていたのだが、僕への電話はただの一本もかかってはこなかった。僕はある夜、約束を果たすために緑のことを考えながらマスターベーションをしてみたのだったがどうもうまくいかなかった。仕方なく途中で直子に切りかえてみたのだが、直子のイメージも今回はあまり助けにならなかった。それでなんとなく馬鹿馬鹿しくなってやめてしまった。そしてウィスキーを飲んで、歯を磨いて寝た。



    *



    日曜日の朝、僕は直子に手紙を書いた。僕は手紙の中で緑の父親のこと書いた。僕はその同じクラスの女の子の父親の見舞いに行って余ったキウリをかじった。

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