第86章

小说:挪威的森林(中日双语版)作者:村上春树字数:3512更新时间 : 2017-07-31 14:04:07

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会いたいに決まってるでしょう?だって私あなたのこと好きだって言ったでしょう?私そんなに簡単に人を好きになったり、好きじゃなくなったりしないわよ。そんなこともわかんないの?」



    「それはもちろんそうだけど――」



    「そりゃね、頭に来たわよ。百回くらい蹴とばしてやりたいくらい。だって久し振りに会ったっていうのにあなたはボオッとして他の女の人のことを考えて私のことなんか見ようともしないんだもの。それは頭に来るわよ。でもね、それとはべつに私あなたと少し離れていた方がいいんじゃないかという気がずっとしてたのよ。いろんなことをはっきりさせるためにも」



    「いろんなことって?」



    「私とあなたの関係のことよ。つまりね、私あなたといるときの方がだんだん楽しくなってきたのよ、彼と一緒にいるときより。そういうのって、いくらなんでも不自然だし具合わるいと思わない?もちろん私は彼のこと好きよ、そりゃ多少わかままで偏狭でファシストだけど、いいところはいっぱいあるし、はじめて真剣に好きになった人だしね。でもね、あなたってなんだか特別なのよ、私にとって。一緒にいるとすごくぴったりしてるって感じするの。あたなのことを信頼してるし、好きだし、放したくないの。要するに自分でもだんだん混乱してきたのよ。それで彼のところに行って正直に相談したの。どうしたらいいだろうって。あなたともう会うなって彼は言ったわ。もしあなたと会うなら俺と別れろって」



    「それでどうしたの?」



    「彼と別れたよ、さっぱりと」と言って緑はマルボロをくらえ、手で覆うようにしてマッチで火をつけ、煙を吸いこんだ。



    「どうして?」



    「どうして?」と緑は怒鳴った。「あなた頭おかしいんじゃないの?英語の仮定法がわかって、数列が理解できて、マルクスが読めて、なんでそんなことわかんないのよ?なんでそんなこと訊くのよ?なんでそんなこと女の子に言わせるのよ?彼よりあなたの方が好きだからにきまってるでしょ。私だってね、もっとハンサムな男の子好きになりたかったわよ。でも仕方ないでしょ、あなたのこと好きになっちゃったんだから」



    僕は何か言おうとしたが喉に何かがつまっているみたいに言葉がうまく出てこなかった。



    緑は水たまりの中に煙草を投込んだ。「ねえ、そんなひどい顔しないでよ。悲しくなっちゃうから。大丈夫よ、あなたに他に好きな人がいること知ってるから別に何も期待しないわよ。でも抱いてくれるくらいはいいでしょ?私だってこのニヶ月本当に辛かったんだから」



    我々はゲーム?コーナーの裏手で傘をさしたまま抱きあった。固く体をあわせ、唇を求めあった。彼女の髪にも、ジーンズのジャケットの襟にも雨の匂いがした。女の子の体ってなんてやわらかくて温かいんだろうと僕は思った。ジャケット越しに僕は彼女の乳房の感触をはっきりと胸に感じた。僕は本当に久し振りに生身の人間に触れたような気がした。



    「あなたとこの前に会った日の夜に彼と会って話したの。そして別れたの」と緑は言った。



    「君のこと大好きだよ」と僕は言った。「心から好きだよ。もう二度と放したくないと思う。でもどうしようもないんだよ。今は身うごきとれないんだ」



    「その人のことで?」



    僕は肯いた。



    「ねえ、教えて。その人と寝たことあるの?」



    「一年前に一度だけね」



    「それから会わなかったの?」



    「二回会ったよ。でもやってない」と僕は言った。



    「それはどうしてなの?彼女はあなたのこと好きじゃないの?」



    「僕にはなんとも言えない」と僕は言った。「とても事情が混み入ってるんだ。いろんな問題が絡みあっていて、それがずっと長いあいだつづいているものだから、本当にどうなのかというのがだんだんわからなくなってきているんだ。僕にも彼女にも。僕にわかっているのは、それがある種の人間として責任であるということなんだ。そして僕はそれを放り出すわけにはいかないんだ。少なくとも今はそう感じているんだよ。たとえ彼女が僕を愛していないとしても」



    「ねえ、私は生身の血のかよった女の子なのよ」と緑は僕の首に頬を押し付けて言った。「そして私はあなたに抱かれて、あなたのことを好きだってうちあけているのよ。あなたがこうしろって言えば私なんだってするわよ。私多少むちゃくちゃなところあるけど正直でいい子だし、よく働くし、顔だってけっこう可愛いし、おっぱいだって良いかたちしているし、料理もうまいし、お父さんの遺産だって信託預金にしてあるし、大安売りだと思わない?あなたが取らないと私そのうちどこかよそに行っちゃうわよ」



    「時間がほしいんだ」と僕は言った。「考えたり、整理したり、判断したりする時間がほしいんだ。悪いとは思うけど、今はそうとしか言えないんだ」



    「でも私のこと心から好きだし、二度と放したくないと思ってるのね?」



    「もちろんそう思ってるよ」



    緑は体を離し、にっこり笑って僕の顔を見た。「いいわよ、待ってあげる。あなたのことを信頼してるから」と彼女は言った。「でお私をとるときは私だけをとってね。そして私を抱くときは私のことだけを考えてね。私の言ってる意味わかる?」



    「よくわかる」



    「それから私に何してもかまわないけれど、傷つけることだけはやめてね。私これまでの人生で十分傷ついてきたし、これ以上傷つきたくないの。幸せになりたいのよ」



    僕は彼女の体を抱き寄せて口づけした。



    「そんな下らない傘なんか持ってないで両手でもっとしっかり抱いてよ」と緑は言った。



    「傘ささないとずぶ濡れになっちゃうよ」



    「いいわよ、そんなの、どうでも。今は何も考えずに抱きしめてほしいのよ。私二ヶ月間これ我慢してたのよ」



    僕は傘を足もとに置き、雨の中でしっかりと緑を抱きしめた。高速道路を行く車の鈍いタイヤ音だけがまるでもやのように我々のまわりを取り囲んでいた。雨は音もなく執拗に降りつづき、僕の黄色いナイロンのウィンド?ブレーカーを暗い色に染めた。



    「そろそろ屋根のあるところに行かない?」と僕は言った。



    「うちにいらしゃいよ。今誰もいないから。このままじゃ風邪引いちゃうもの」



    「まったく」



    「ねえ、私たちなんだか川を泳いで渡ってきたみたいよ」と緑が笑いながら言った。「ああ気持良かった」



    僕らはタオル売り場で大きめのタオルを買い、かわりばんこに洗面所に入って髪を乾かした。それから地下鉄を乗りついで彼女の茗荷谷のアパートまで行った。緑はすぐに僕にシャワーを浴びさせ、それから自分も浴びた。そして僕の服が乾くまでバスローブを貸してくれ、自分はポロシャツとスカートに着がえた。我々は台所のテーブルでコーヒーを飲んだ。



    「あなたのこと話してよ」と緑は言った。



    「僕のどんなこと?」



    「そうねえ……どんなものが嫌い?」



    「鳥肉と性病としゃべりすぎ床屋が嫌いだ」



    「他には?」



    「四月の孤独な夜とレースのついた電話機のカバーが嫌いだ」



    「他には?」



    僕は首を振った。「他にはとくに思いつかないね」



    「私の彼は――つまり前の彼は――いろんなものが嫌いだったわ。私がすごく短いスカートはくこととか、煙草を吸うこととか、すぐ酔払うこととか、いやらしいこと言うこととか、彼の友だちの悪口言うこととか……だからもしそういう私に関することで嫌なことあったら遠慮しないで言ってね。

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