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トットちゃんは、立ち上がりながら、満足気名調子で言った。 「よかった。じゃ、ママたちに見せてくる」 トットちゃんが行っちゃうと、ロッキーは、もう少し涼しい場所を探すために、起き上がった。そして、ゆっくり、すわると、目を閉じた。それは、トットちゃんじゃなくても、ロッキーが通信簿について考えている、と思うような、目の閉じ方だった。
「明日、テントを張って、野宿をします。毛布とパジャマを持って、夕方、学校に来てください」 こういう校長先生からの手紙を、トットちゃんは、学校から持って帰って、ままに見せた。明日から、夏休み、という日のことだった。 「野宿って、なあに?」 トットちゃんは、ママに聞いた。ママも、考えていたところだったけど、こんな風に答えた。 「とっか、外にテントを張って、その中に寝るんじゃないの?テントだと、寝ながら、星とかお月様が見られるのよ。でも、どこにテントを張るのかしらね。交通費っていうのがないから、きっと学校の近くよ」その夜、ベッドに入っても、トットちゃんは、野宿のことを考えると、ちょっと、怖いみたいな、ものすごく冒険みたいな、なんかドキドキする気持ちで、いつまでも、眠くならなかった。 次の日、目が覚めると、もう、トットちゃんは、荷物を作り始めた。そして、パジャマを入れたリュックの上に、毛布を乗せてもらうと、少し、つぶされそうになりながら、夕方、ママとパパにバイバイをすると、出かけていった。\ 学校にみんなが集まると、校長先生は、「みんな講堂においで」といい、みんなが講堂に集まると、小さいなステージの上に、ゴワゴワしたものを、持って上がった。それは、グリーン色のテントだった。先生は、それを広げると、いった。「これから、テントの張り方を教えるから、よく見てるんだよ」そして、先生は、一人で、“ふんふん”いいながら、あっちの紐をひっぱったり、こっちに柱を建てたりして、あっ、という間に、とてもステキな三角形のテントを張ってしまった。そして、いった。「いいかい。これから君達は、みんなで講堂に、たくさん、テントを張って、野宿だ!」ママは、たいがいの人が考えるように、外のテントを張るのだと思ったのだけれど、高校先生の考えは、違っていた。 “講堂なら、雨が降っても、少々、夜中に寒くなっても、大丈夫!” 子供たちは、一斉に「野宿だ!野宿だ!」と叫びながら、何人かずつ、組になり、先生達にも手伝ってもらって、とうとう、講堂の床に、みんなの分だけのテントを張ってしまった。ひとつのテントは、三人くらいずつ寝られる大きさだった。トットちゃんは、はやばやと、パジャマになると、あっちもテント、こっちょのテントと、入り口から、はいずって、出たり入ったり、満足のいくまでした。みんなも同じように、よそのテントを訪問しあった。全部が、パジャマになると、校長先生は、みんなが見える、真ん中に座って、先生が旅をした外国の話しをしてくれた。子供達は、テントから首を半分だした寝転んだ形や、きちんと、座ったり、上級生の膝に、頭を持たせかけたりしながら、行ったことは勿論、それまで見たことも、聞いたこともない外国の話しを聞いた。先生の話はめずらしく、ときには、海の向こうの子供達が、友達のように思えるときも、あった。そして、たったこれだけのことが……講堂にテントを張って、寝ることが……子供たちにとっては、一生、忘れることの出来ない、楽しくて、貴重な経験になった。校長先生は、確実に、子供たちの喜ぶことを知っていた。先生の話が終わり、行動の電気が消えると、みんなは、ゴソゴソと、自分のテントの中に入った。あっちのテントからは、笑い声が……、こっちのテントからは、ヒソヒソ声が、それから、向こうのテントでは、取っ組み合いが……。それもだんだんと静かになっていった。星も月もない野宿だったけど、心のそこから満足した子供たちが、小さい講堂で、野宿をしていた。そして、その夜、たくさんの星と、月の光は、講堂を包むように、いつまでも、光っていたのだった。
講堂での野宿の次の次の日、とうとう、トットちゃんの大冒険の日が来た。それは、泰明ちゃんとの約束だった。そして、その約束は、ママにもパパにも、泰明ちゃんの家の人にも、秘密だった。その約束が、どういうのか、というと、それは、「トットちゃんの木に、泰明ちゃんを招待する」というものだった。トットちゃんの木、といっても、それはトモエの校庭にある木で、トモエの生徒は、校庭のあっちこっちに自分専用の、登る木を決めてあったので、トットちゃんのその木も、校庭の端っこの、九品仏に行く細い道に面した垣根のところに生えていた。その木は、太くて、登るときツルツルしていたけど、うまく、よじ登ると、下から二メートルくらいのところが、二股になっていて、その、またのところが、ハンモックのように、ゆったりとしていた。トットちゃんは、学校の休み時間や、放課後、よく、そこに腰をかけて、遠くを見物したり、空を見たり、道を通る人たちを眺めたりしていた。 そんなわけで、よその子に登らせてほしいときは、「ごめんくださいませ。ちょっとお邪魔します」という風にいって、よじ登らせてもらうくらい、“自分の木”って、決まっていた。でも、泰明ちゃんは、小児麻痺だったから、木に登ったことがなく、自分の木も、決めてなかった。だから、今日、トットちゃんは、その自分の木に、泰明ちゃんを招待しようと決めて、泰明ちゃんと、約束してあったのだ。トットちゃんが、みんなに秘密にしたのは、きっと、みんなが反対するだろう、と思ったからだった。トットちゃんは、家をでるとき、 「田園調布の、泰明ちゃんの家に行く」 とママに言った。嘘をついてるので、なるべくママの顔を見ないで、靴のヒモのほうを見るようにした。でも、駅までついてきたロッキーには、別れるとき、本当のことを話した。「泰明ちゃんを、私の木に登らせてあげるんだ!」トットちゃんが、首からヒモで下げた定期をバタバタさせて学校に着くと、泰明ちゃんは、夏休みで誰もいない校庭の、花壇のそばに立っていた。泰明ちゃんは、トットちゃんより、一歳、年上だったけど、いつも、ずーっと大きい子のように話した。 泰明ちゃんは、トットちゃんを見つけると、足を引きずりながら、手を前のほうに出すような恰好で、トットちゃんのほうに走って来た。トットちゃんは、誰にも秘密の冒険をするのだ、と思うと、もう嬉しくなって、泰明ちゃんんの顔を見て、 「ヒヒヒヒヒ」 と笑った。泰明ちゃんも、笑った。それからトットちゃんは、自分の木のところに、泰明ちゃんを連れて行くと、ゆうべから考えていたように、小使いの小父さんの物置に走っていって、立てかける梯子を、ズルズルひっぱって来て、それを、木の二股あたりに立てかけると、どんどん登って、上で、それを押さえて、 「いいわよ、登ってみて?」 と下を向いて叫んだ。でも泰明ちゃんは、手や足の力がなかったから、とても一人では、一段目も登れそうになかった。そこで、トットちゃんは、物凄い早さで、後ろ向きになって梯子を降りると、今度は、泰明ちゃんのお尻を、後ろから押して、上に乗せようとした。ところが、トットちゃんは、小さくて、やせている子だったから、泰明ちゃんのお尻を押さえるだけが精いっぱいで、グラグラ動く梯子を押さえる力は、とてもなかった。泰明ちゃんは、梯子にかけた足を降ろすと、だまって、下を向いて、梯子のところに立っていた、トットちゃんは、思っていたより、難しいことだったことに、初めて気がついた。 (どうしよう……) でも、どんなことをしても、泰明ちゃんも楽しみにしている、この自分の木に、登らせたかった。トットちゃんは、悲しそうにしている泰明ちゃんの顔の前にまわると、頬っぺたを膨らませた面白い顔をしてから、元気な声でいった。 「待ってって?いい考えがあるんだ!!」 それから、次々と引っ張り出してみた。そして、とうとう、脚立を発見した。 (これなら、グラグラしないから、押さえなくても大丈夫) それから、トットちゃんは、その脚立を、引きずって来た。それまで、「こんなに自分が力持ちって知らなかった」と思うほどの凄い力だった。脚立を立ててみると、ほとんど、木の二股のあたりまで、とどいた。それから、トットちゃんは、泰明ちゃんのお姉さんみたいな声でいった。 「いい?こわくないのよ。もう、グラグラしないんだから」 泰明ちゃんは、とてもビクビクした目で脚立を見た。
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