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それから、汗びっしょりのトットちゃんを見た。泰明ちゃんも、汗ビッショリだった。それから、泰明ちゃんは、木を見上げた。そして、心を決めたように、一段目に足をかけた。 それから、脚立の一番上まで、泰明ちゃんが登るのに、どれくらいの時間がかかったか、二人にもわからなかった。夏の日射しの照りつける中で、二人とも、何も考えていなかった。とにかく、泰明ちゃんが、脚立の上まで登れればいい、それだけだった。トットちゃんは、泰明ちゃんの足の下にもぐっては、足を持ち上げ、頭で泰明ちゃんのお尻を支えた。泰明ちゃんも、力の入る限り頑張って、とうとう、てっぺんまで、よじ登った。 「ばんざい!」 ところが、それから先が絶望的だった。二股に飛び移ったトットちゃんが、どんなに引っ張っても、脚立の泰明ちゃんは、木の上に移れそうもなかった。脚立の上につかまりながら、泰明ちゃんは、トットちゃんを見た。突然、トットちゃんは、泣きたくなった。 「こんなはずじゃなかった。私の木に泰明ちゃんを招待し手、いろんなものを見せてあがたいと思ったのに」 でも、トットちゃんは、泣かなかった。もし、トットちゃんが泣いたら、泰明ちゃんも、きっと泣いちゃう、と思ったからだった。 トットちゃんは、泰明ちゃんの、小児麻痺で指がくっついたままの手を取った。トットちゃんの手より、ずーっと指が長くて、大きい手だった。トットちゃんは、その手を、しばらく握っていた。そして、それから、いった。 「寝る恰好になってみて?ひっぱってみる」 このとき、脚立の上に腹ばいになった泰明ちゃんを、二股の上に立ち上がって、引っ張り始めたトットちゃんを,もし、大人が見たら、きっと悲鳴をあげたに違いない。それくらい、二人は、不安定な恰好になっていた。 でも、泰明ちゃんは、もう、トットちゃんを信頼していた。そして、トットちゃんは、自分の全生命を、このとき、かけていた。小さい手に、泰明ちゃんの手を、しっかりとつかんで、ありったけの力で、泰明ちゃんを、引っ張った。 入道曇が、時々、強い日ざしを、さえぎってくれた。 そして、ついに、二人は、向かい合うことが出来たのだった。トットちゃんは、汗で、ビチャビチャの横わけの髪の毛を、手でなでつけながら、お辞儀をしていった。 「いらっしゃいませ」 泰明ちゃんは、木に、よりかかった形で、少し恥ずかしそうに笑いながら、答えた。 「お邪魔します。」 泰明ちゃんにとっては、初めて見る景色だった。そして、「木に登るって、こういうのか、って、わかった」って、うれしそうにいった。それから、二人は、ずーっと木の上で、いろんな話しをした。泰明ちゃんは、熱を込めて、こんな話しもした。「アメリカにいる、お姉さんから、聞いたんだけど、アメリカに、テレビジョンていうのが出来たんだって。それが日本に来れば、家にいて、国技館の、お相撲が見られるんだって。箱みたいな形だって」遠くに行くのが大変な泰明ちゃんにとって、家にいて、いろんなものが見られることが、どんなに、嬉しいことか、それは、まだトットちゃんには、わからないことだった。だから、(箱の中から、お相撲が出るなんて、どういう事かな?お相撲さんで、大きいのに、どうやって、家まで来て、箱の中に入るのかな?)と考えたけど、とっても、変わってる話だとは、思った。まだ、誰もテレビジョンなんて知らない時代のことだった。トットちゃんに、最初にテレビの話しを教えてくれたのは、この泰明ちゃんだった。セミが、ほうぼうで鳴いていた。二人とも、満足していた。そして、泰明ちゃんにとっては、これが、最初で、最後の、木登りになってしまったのだった。
「こわくて、くさくて、おいしいもの、なあに?」。このナゾナゾは何度やっても面白いので、トットちゃん達は、答えを知ってるのに、 「ねえ、“こわくて”っていう、あのナゾナゾ、出して?」と、お互いに出しあっては、よろこんだ。答えは、「鬼か、トイレで、おまんじゅう食べているところ」というのだけれど。さて、今晩のトモエの“肝試し”は、こんなナゾナゾみたいな結果になった。「こわくて、痒くて、笑っちゃうもの、なあに?」っていう風に。講堂にテントを張って野宿した、あの晩、校長先生が、「九品仏のお寺で、夜、“肝試し”やるけど、お化けになりたい子、手をあげて!」といって、男の子が七人くらい、きそって、オバケになる、ということになっていた。今日の夕方、みんなが学校に集まると、オバケになる子は、思い思いに、自分で作ったオバケの衣裳を用意して、「こわくするぞー!!」とかいって、九品仏のお寺のどこかに、隠れに行った。後の三十人くらいの子は、五人くらいずつのグループに分かれて、少しずつ時間をずらして学校を出発、九品仏のお寺とお墓を回って、学校まで帰って来る。つまり、「どれだけ、こわいのを我慢できるかの、“肝試し”だけど、こわくなったら、途中で帰って来てちっともかまわない」と、校長先生は説明した。トットちゃんは、ママから懐中電灯を借りて来た。「なくさないでね」とママは言った。男の子の中には、「オバケをつかまえる」といって、蝶々を採るアミとか、「オバケを、しばってやる」といって、縄を持ってきた子もいた。校長先生が、説明したり、ジャンケンでグループを決めているうちに、かなり暗くなってきて、いよいよ、第一のグループは、「出発していい」ということになった。みんな興奮して、キイキイいいながら、校門を出て行った。そして、いよいよ、トットちゃん達のグループの番になった。(九品仏のお寺に行くまで、オバケ出ない、と先生はいったけど、絶対に、途中で出ないかな……)とビクビクしながら、やっと仁王様の見える、お寺の入り口に、たどりついた。夜のお寺は、お月様が出ていても、暗いみたいで、いつもは広広として気持ちのいい境内なのに、今日は、どこからオバケが出て来るか判らないと思うと、もう、トットちゃん達は、こわくてこわくて、どうしようもなかった。だから、ちょっと風で木が揺れると、「キャーッ!!」。足で、グニャッとしたものを踏むと、「出たア!」。しまいには、お互いに手をつないでいる相手さえも、(オバケじゃないか!?)と心配になったくらいだった。トットちゃんは、もう、お墓まで行かないことにした。オバケは、お墓で待ってるに決まってるし、もう、充分に、(キモダメシが、どんなのか)ってわかったから、帰ったほうがいい、と考えたからがった。偶然、グループのみんなも同じ考えだったので、トットちゃんは、(よかった、一人じゃなくて)と思い、帰り道、みんなは、もう一目散だった。学校に帰ると、前に行った組も、帰って来ていて、みんなも、怖いから、ほとんどお墓まで行かなかった、とわかった。そのうち、白い布を頭から、かぶった男の子が、ワアワア泣きながら、先生に連れられて、門から入って来た。その子は、オバケになって、ずーっと、お墓の中にしゃがんで、みんなを待っていたけど、誰も来ないし、だんだん、こわくなって、とうとうお墓から外に出て、道で泣いてるところを、巡回してた先生に見つけられ、帰って来たのだった。みんなが、その子を慰めていると、また泣きながら、違うオバケと男の子が帰って来た。オバケの子は、誰かがお墓に入って来たので、「オバケ!」と言おうと思って前に飛び出したら、走って来たその男の子と正面衝突して、二人とも、びっくりしたのと、痛いのとで、オイオイ泣きながら、一緒に走って来たのだった。みんな、おかしいのと、怖かったのが終わった安心とで、ゲラゲラ笑った。オバケも、泣きながら笑った。そこに、新聞紙で作ったオバケをかぶった。トットちゃんと同級生の右田君が、「ひどいよ、ずーっと待ってたのにさ」といいながら帰って来て、蚊に食われた、足や手を、ボリボリ掻いた。それを見て、「オバケが、蚊に食われてる!」と誰かが言ったから、みんな、また笑った。五年生の受け持ちの丸山先生が、「じゃ、そろそろ残ってるオバケを連れて来ましょう」と出かけて行った。そして、外灯の下でキョロキョロしてたオバケや、こわくって、家まで帰っちゃったオバケを、全部、連れて帰って来た。この夜のあと、トモエの生徒はは、オバケを、怖くないと思った。だって、オバケだって、こわがっているんだ、って、わかったんだからさ。
トットちゃんは、お行儀よく歩いている。犬のロッキーも、たまにトットちゃんの顔を見上げながら、やっぱり、お行儀よく歩いている。
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