第18章

小说:窗边的小豆豆(中文版+日文版)作者:[日]黑柳彻子字数:3522更新时间 : 2017-07-30 10:15:55

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はじめは、冗談から始まったのだけれど、トットちゃんの部屋で、トットちゃんとロッキーが、「狼ごっこ」をしてるときに、それは起こった。「狼ごっこ」の前は、普通みたいに、お互いが、部屋の反対側から、ゴロゴロ転がって来て、ぶつかったところで、少し、お相撲みたいに、取っ組み合いを少しやって、少しやったら、「パッー」と離れるのを、繰り返していた。そのうち、もう少し、「難しいのをやってみよう」ということになって……といっても、トットちゃんが一方的に決めたんだけど……、ゴロゴロころがって来て、ぶつかったとき、「狼みたいに、見えたほうが勝ち!」というのをやろう、ということになった。シェパードのロッキーにとって、狼になるのは、そう難しいことじゃなかった。耳をピーンとさせて、口を大きく開ければ、歯は奥のほうまで、いっぱいあったし、目だって、怖く出来た。でも、トットちゃんにとっては、少し大変だったけど、とにかく両手を耳みたいに頭のところにやって、口を出来るだけ大きく開け、目だって、精一杯大きくして、「ウ~、ウ~」とうなって、こうやって狼みたいに、やってるうちに、まだ子供のロッキーには、冗談と、本当の見境がつかなくなってきて、突然、まねじゃなくて、本当に噛み付いた。子供といっても、体はトットちゃんの倍近くあったし、歯だって、とがっていたから、トットちゃんが、「あっ!」と思って気がついたときは、トットちゃんの右の耳が、ブラブラになっていた。血がダラダラ、いっぱい出て来た。「あーあ!!」叫び声で、ママがお台所から飛んで来たとき、トットちゃんは、右の耳を両手で押さえて、ロッキーと部屋の隅っこのほうにいた、洋服も、そのあたりも、血でいっぱいだった。応接間でヴァイオリンの練習をしていたパパも、飛んで来た。ロッキーは、今になって、自分が大変なことをしたことに気がついたのか、尻尾をたらし、トットちゃんの顔を上目づかいに見た。このとき、トットちゃんの頭の中には、ひとつのことしかなかった。それは、(もし、パパとママが、凄く怒って、ロッキーを捨てたり、よそにやったりしたら、どうしよう)ということだった。トットちゃんにとって、何よりも、それは、悲しくて、こわいことだった。だから、トットちゃんは、ロッキーにくっついて、うずくまって、右の耳を押さえながら、大きな声で、繰り返し、こういった。「ロッキーを叱らないで!ロッキーを叱らないで!」パパとママは、そんなことより、耳がどうなったのか知ろうとして、トットちゃんの手を耳からどかそうとした。トットちゃんは、手を離さないで、叫ぶようにいった。「痛くなんかない!ロッキーのこと、怒らないで!怒らないで!」トットちゃんは、このとき、本当に痛さは感じていなかった。ロッキーのことだけが心配だった。そういってる間にも、血がどんどん流れていた。パパとママに、やっとロッキーが噛んだらしい、ということがわかったけど、とにかく、「怒らない」と約束した。それで、やっと、トットちゃんは、手を離した。ブラブラになってる耳を見て、ママは悲鳴をあげた。それから、ママが道案内をして、パパが、トットちゃんを抱えて、耳のお医者様に行った。とにかく、手当てが早かったのと、運がよかったのとで、耳は、もと通りに、つく、ということがわかった。パパとママは、やっと安心した。でも、トットちゃんは、パパとママが、「怒らない」って言う約束を守ってくれるかだけが、心配だった。トットちゃんは包帯で、頭から、あごから、耳から、グルグル巻きにされてまるで白兎のようになって、家に帰った。怒らないと約束したけど、パパは、(ひとこと、ロッキーにいわなくては気が済まない)と思っていた。でも、ママが、「約束したんだから」と目で知らせて、パパは、やっと我慢した。トットちゃんは、ロッキーに、「もう大丈夫!誰も怒っていない」ということを、早く知らせたくて、急いで家に入った。でも、ロッキーは、どこにも見えなかった。このとき、トットちゃんは、はじめて、泣いた。お医者様のところでも、一生懸命、我慢して、泣かなかったのに、泣けば、その分だけロッキーが叱られると思ったから。でもいまは、涙が止まらなかった。泣きながら、トットちゃんは、名前を呼んだ。「ロッキー!ロッキー!いないの?」何度が呼んだとき、トットちゃんの涙でいっぱいの顔が、ニッコリした。だって見馴れた茶色の背中がソファーの後ろから、少しずつ見えて来たから……。ロッキーは、トットちゃんに近づくと、包帯の隙間から見えてる、トットちゃんの、大丈夫のほうの耳を、そーっと、なめた。トットちゃんは、ロッキーの首を抱くと、耳の中のにおいをかいだ。パパもママも、「くさい」というけど、トットちゃんには、なつかしく、いいにおいだった。ロッキーもトットちゃんも疲れて眠くなった。夏の終わりの月は、前よりもっと仲良くなった、この包帯だらけの女の子と、もう絶対に「狼ごっこ」をやらない犬を、庭の少し上のほうから、見ていたようだった。

    トモエの運動会は「十一月三日」と決まっていた。それは、校長先生が、いろんなところに問い合わせた結果、秋で、雨の降ることが最も少ないのが、この十一月三日とわかったので、そう決めて以来、毎年、この日にやることになっていた。前の日から、すっかり校庭にいろんな準備や飾り付けをして楽しみにしてる子供達の運動会に、できる限り雨が降らないでほしいと願う校長先生の、お天気データ集めが成功したのか、その気持ちが、空の雲や、お日様に通じたのか、本当に不思議なくらい、この日は雨が降らなかった。ところで、トモエ学園には随分いろんなことが、普通の学校と違っていたけど、運動会は、とりわけユニークなものだった。普通の小学校と同じものは、綱引きと、二人三脚くらいのもので、あとは全部、校長先生の考えた競技だった。それも、特別な道具を使うとか、大げさなものは、何一つなく、すべて、学校にあるおなじみのもので、まにあった。例えば、「鯉のぼり競争」というのは、出発点から、ヨーイドン!で、少し走って、校庭の真ん中においてある、というか、寝ている、大きい布の鯉のぼりの、口から入って、しっぽから出て、また出発点まで帰って来る、というのだった。鯉は、青い色が二匹と赤いのが一匹で、合計三匹いたから、三人が同時にヨーイドン!で出発した。でも、これは、やさしいようで、案外難しかった。というのは、中に入ると、真っ暗で、胴体が長いから、しばらくゴソゴソやってるうちに、どっちから入ったのかわからなくなって、トットちゃんみたいに、何度も、鯉の口から顔を出して外も見ては、また、急いで中に、もぐっていく、というふうになってしまうからだった。これは、見ている子供たちにとっても、面白かった。というのは、中で誰かがゴソゴソ行ったり来たりしていると、まるで、鯉が生きてるように見えたから。それからまた、「お母さん探し競争」というのもあった。これは、ヨーイドン!で、少し走って、横に長く置いて立ててある、木の梯子の、段と段の間を通り抜け、その向こうにある籠の中の封筒から、紙を取り出し、例えばそれに、\ 「サッコちゃんのお母さん」と書いてあったら、見物人の中に行って、サッコちゃんのお母さんを探し、手をつないでゴールインするのだった。これは、横にしてある梯子の四角い穴をくぐるのだから、よほど猫みたいに、うまくやらないと、お尻とかが引っかかった。それから、「サッコちゃんのお母さん」だったら知ってても、「奥先生のお姉さん」とか、「津江先生のお母さん」とか、「国則先生の息子さん」になると、逢ったことがないから、見物人のところに行って、「奥先生のお姉さん!」と、大きい声で呼ばなきゃならなかったから、少し勇気も必要だった。だから、偶然、自分のお母さんにあたった子は、大喜びで、「お母さん!お母さん!早く!」と、飛び上がりながら叫ぶのだった。そして、この競争は、子供もだけど、見物人も、しっかりしてることが必要だった。子供が次々に走って来て、誰かのお母さんの名前を言うから、呼ばれたお母さんは、ぼんやりしてないで、すぐ、座っているベンチや、ゴザのところから立ち上がって、他の座ってるお父さんやお母さん達の間を、「恐れ入ります」なんていいながら、しかも、急いで、すり抜けて、誰かの子供と手をつないで走らなくちゃいけなかったし。だから、お父さん達も、子供が走って来て、大人の前に止まると、一斉に息を止めて、誰の名前を言うか、その子供に注目した。

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