第29章

小说:窗边的小豆豆(中文版+日文版)作者:[日]黑柳彻子字数:3508更新时间 : 2017-07-30 10:15:56

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トットちゃんは、そのとき、優しそうで、ベッドの上に正座してる兵隊さんのベッドのはじに、人なつっこく腰をかけて、「困ったな」と思いながら、みんなの歌を聞いていた。いらかの波と…… が終わると、女の先生は、いった。はっきりと。「では、今度は、「ひな祭り」です」トットちゃん以外の、みんなは、きれいに歌った。あかりをつけましょ ぼんぼりに…… トットちゃんは、黙っているしかなかった。みんなが歌い終わると、兵隊さんが拍手をした。女の先生は、にっこりすると、「では」といってから、「皆さん、「お馬の親子」ですよ。元気よく、さあ、三!四!」と、指揮を始めた。これも、トットちゃんの知らない歌だった。みんなが、「お馬の親子」を歌い終わったときだった。トットちゃんの腰掛けてるベッドの兵隊さんが、トットちゃんの頭をなでて、いった。「君は、歌わないんだね」トットちゃんは、とても申し訳ない、と思った。お見舞いに来たのに、一つも歌わないなんて。だから、トットちゃんは、ベッドから離れて立つと、勇気を出して、いった。「じゃ、あたしの知ってるの、歌います」女の先生は、命令と違うことは始まったので、「何です?」と聞いたけど、トットちゃんが、もう息を吸い込んで歌おうとしてるので、黙って聞くことにしたらしかった。トットちゃんは、トモエの代表として、一番、トモエで有名な歌がいい、と思った。だから、息を吸うと、大きい声で歌い始めた。よーく 噛めよ たべものを…… 周りの子供たちから、笑い声が起こった。中には、「何の歌?何の歌?」と、隣の子に聞いてる子もいた。女の先生は、指揮のやりようがなくて、手を空中にあげたままだった。トットちゃんは、恥ずかしかったけど、一生懸命に歌った。噛めよ 噛めよ 噛めよ 噛めよ たべものを…… 歌い終わると、トットちゃんは、おじぎをした。頭を上げたとき、トットちゃんは、その兵隊さんの目から、涙が、こぼれているのを見て、びっくりした。何か、悪いことをしたのか、と思ったから。すると、その、パパより少し歳をとったくらいの兵隊さんは、また、トットちゃんの頭をなでて、「ありがとう、ありがとう」といった。頭をなでてくれながら、兵隊さんの涙は止まらないみたいだった。そのとき、女の先生は、気を取り直すような声で、いった。「じゃ、ここで、みんなの、おみやげの、作文を、読みましょう」子供たちは、自分の作文を、一人ずつ、読み始めた。トットちゃんは、兵隊さんを、見た。兵隊さんは、目と、鼻を赤くしながら、笑った。トットちゃんも、笑った。そして、思った。(よかった。兵隊さんが笑った)兵隊さんの涙が、何であったのか、それは、その兵隊さんにしか、わからないことだった。もしかすると、それは、故郷に、トットちゃんに似た子を残してきていたのかも、知れなかった。それとも、トットちゃんが、あまり一生懸命に歌ったので、いじらしく、かわいく思ったのかも知れなかった。そして、もしかすると、戦地での体験で、(もうじき食べ物もなくなるのに、“よく噛めよ”の歌を歌ってる)と、可哀そうに思ったのかも知れなかった。そして兵隊さんには、この子供達が、これから巻き込まれる、本当の恐ろしいことが、わかっていたのかも、知れなかった。作文を読む子供たちの知らないうちに、太平洋戦争は、もう、いつのまにか、始まっていたのだった。

    もう、すっかり顔なじみになった、自由が丘の改札口のおじさんに、トットちゃんは、首から紐で下げた定期を見せると、駅を出た。さて、今日は、そこに、とても面白そうなことが起こっていた。それは、若いお兄さんが、ゴザを敷いて、その上に、あぐらをかいて座っていて、そのお兄さんの前には、木の皮みたいのが、山のように、積んであった。そして、そのまわりには、見物人が、五、六人、たまって、そのお兄さんのすることを見物していたのだった。トットちゃんも、その見物の中に加わってみることにした。どうしてかっていえば、そのお兄さんが、「さあ、見てごらん、見てごらん」と、いったからだった。トットちゃんが立ち止ったのを見ると、お兄さんは、いった。「さあ、人間は健康が第一。朝起きて、自分が元気か、病気か、調べるのが、この木の皮だ。朝、この木の皮を噛んでみて、もし、にがかったら……、それは、病気という証拠。もし、噛んでも、にがくなかったら、あんたは大丈夫、病気じゃない。たったの二十銭で、病気がわかる、この木の皮、さあ、そこの旦那さん、ためしに噛んでみてください」少し、やせた男の人が、渡された木の皮を、おそるおそる、前歯で噛んだ。そして、ちょっとして、その人は、首をかしげながら、いった。「少し、苦い……ような木がする……」お兄さんは、それを聞くと、飛び上がって叫んだ。「旦那さん、あんたは病気にかかっている。気をつけなさいよ。でも、まだ、そう悪くはない、苦いような、“気がしてる”んだから。じゃ、そこの奥さん、ちょっと、これを同じように噛んでみてください」おつかい籠を下げた、おばさんは、かなり幅の広いのを、ガリッ!と、いきおいよく噛んだ。そして、うれしそうに、いった。「まあ!ぜんぜんにがくありません」「よかったねえ、奥さん、元気だよ、あんたは!」そして、それから、もっと大きい声で、いった。「二十銭だよ、二十銭!これで毎朝、病気にかかってるかどうか、わかるんだから。安いもんだ!」トットちゃんは、その、ねずみ色みたいな皮を、自分も試しに、噛ませてもらいたい、と思った。だけど、「私にも……」という勇気はなかった。その代わり、トットちゃんは、お兄さんに聞いた。「学校が終わるまで、ここに居る?」「ああ、いるよ」お兄さんは、チラリと小学生のトットちゃんを見て、いった。トットちゃんは、ランドセルを、カタカタいわせると、走り始めた。少し学校に遅れそうになったのと、もうひとつ、用事をしなきゃならなかったからだった。その用事というのは、教室につくなり、みんなに聞いてみることだった。「誰か、二十銭、かしてくれない?」ところが、誰も、二十銭を、持っていなかった。長い箱に入ったキャラメルが、十銭だったから、そう大変なお金じゃないけど、誰も持っていなかった。そのとき、ミヨちゃんが、いった。「お父さんか、お母さんに、聞いてみて、あげようか?」こういうとき、ミヨちゃんが校長先生の娘というのは都合がよかった。学校の講堂のつづきに、ミヨちゃんの家があるから、お母さんも、いつも、学校いるようなものだったし。お昼休みになったとき、ミヨちゃんが、トットちゃんを見ると、いった。「お父さんが、かしてもいいけど、何に使うのかって!」トットちゃんは、校長室に出かけて行った。校長先生は、トットちゃんを見ると、めがねをはずして、いった。「なんだい!二十銭いるって?何に使うの?」トットちゃんは、大急ぎで、いった。「病気か、元気か、噛むとわかる、木の皮を、買いたいの」「どこに売ってるんだい?」と校長先生は、興味深げに、聞いた。「駅の前!」トットちゃんは、また、大急ぎで答えた。「そうかい。いいよ。君がほしいんなら。先生にも噛ましてくれよね」校長先生は、そういうと、上着のポケットから、お財布を出すと、二十銭を、トットちゃんの、手のひらに、のせた。「わあー、ありがとう。ママのもらって、お返しします。本なら、いつも買ってくれるけど、ほかのものの時は、聞いてから買うんだけど、でも、元気の木の皮は、みんなが要るから、買ってくれると思うんだ!」そして、学校が終わると、二十銭を、握り締めて、トットちゃんは、駅の前に、いそいだ。お兄さんは、同じような声で叫んでいたけど、トットちゃんが、掌の二十銭を見せると、にっこり笑って、いった。「いい子だね。お父さん、お母さん、よろこぶよ」「ロッキーだって!」と、トットちゃんは、いった。「なんだい、ロッキーって?」と、お兄さんは、トットちゃんに渡す皮を、選びながら、聞いた。「うちの犬!シェパード!」お兄さんは、選ぶ手を止めると、少し考えてから、いった。「犬ねえ。いいだろう。犬だって、にがきゃ、嫌がるから、そしたら、病気だ……」お兄さんは、幅が三センチくらいで、長さが、十五センチくらいの皮を、手にすると、いった。「いいかい?朝、噛んで、苦いと、病気だよ。なんでもなきゃ、元気だぜ」お兄さんが、新聞紙にくるんでくれた、木の皮を、トットちゃんは、大切に握り締めて、家に帰った。それから、トットちゃんは、まず、自分で噛んで見た。

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